約 2,728,885 件
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/2033.html
「ふたば系ゆっくりいじめ 973 続々続ゆっくり研究/コメントログ」 続いてくれ -- 2014-09-29 20 40 42
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2962.html
※登場する人間達に名前があります。嫌な人は注意。 ※あまりいじめてません。 ※世界観・設定の描写がだるいので斜め読み推奨です。 要するに近代の田舎にゆっくりがいる設定です。 ゆっくりと小学校(前) U市郊外に位置するこの町は多くの山と川に囲まれ、自然を色濃く残している。 都市に近く、閑静な住宅街と綺麗な空気に恵まれた土地は人間にとっても、 数年前から現れだした生物風にいえば「ゆっくりできる」場所であった。 だが、町の開発が進んだ為か、環境問題の影響か 近頃では麓でも大型の鳥獣を見かけることは無くなった。 代わりに山に棲み付いたのが、「ゆっくり」と呼ばれる生物(ナマモノ)である。 「ゆ?」 「ゆっくりしていってね!」 何の前触れも無く全国に現れたこの「ゆっくり」の生態は不可解極まる。 「ゆっくりしていってね!」に代表されるように、ある程度の人語を操る。 出来の悪い生首のような体を持ち、不思議な力で跳ねて移動するが運動能力は低い。 そして、驚くべきことにその体は饅頭で出来ている。 「ゆっくり」が現れて以来、様々な議論が飛び交ってはいるが 殆ど皮と餡子で構成された生物がどうして生きているのか、 そもそもナマモノではなくイキモノとして扱うべきかという問題すら解決していない。 「「ゆっくちしていってね!!!」」 が、普通のの人にとってはそんな難しい話はどうでもよかった。 最初こそ大騒ぎになったがゆっくりが珍しい存在ではないと分かり、 それぞれがそれぞれの付き合い方を見つけていった。 畑を荒らされ踏み潰す者、一緒に遊んだりゆっくりする者、 食料として扱う者、ペットとして飼う者、人には言えない趣味に使う者、 ゆっくりと関わる人向けのビジネスに携わる者など、多種多様である。 「うん、ゆっくりしていってね。やっぱりかわいいなぁ。でもそこにいると・・・」 「えっへん! おねえさんはゆっくりできるひとd ゆっくりは主に自然が豊かな土地に棲む。 都市部はゆっくりにとってあまりにもゆっくりできない場所であった。 ゆっくり出来ない人や鉄の獣が飛び交い、潰されずにいるだけでも精一杯。 おいしい食べ物、きれいな水、ゆっくりできるおうち、どれも手に入らない。 全てが手にはいるゆっくりぷれいすを見つけたゆっくりは燃えるゴミと成り果てた。 自然豊かな土地に棲むというより都市で生き残れなかっただけかもしれない。 「ゆびゅっ!?」 そこに何も無かったかのように少女の目の前を車が通り過ぎて行った。 親れいむがいた所に残されているのは、親ゆっくり1匹分の餡子と皮。 ゆっくりが現れてからは珍しくない光景だ。 後に残されたのは子ゆっくり2匹と、登校中の少女が一人。 ソフトボール大の子れいむと子まりさは目の前の状況に頭が追いついていないようだ。 「「・・・ゆ?」」 「・・・」 いくら郊外とはいえ、道路の上に饅頭がおいてあればこうなる。 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! おかあさんがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」 「ゆうううう!!? どお゛ぢでえええええええええ゛え゛え゛え゛!!!!?」 「・・・・・・ごめんね、気づいてあげられなくて」 「ゆっぐ、ゆっぐ」 「ゆうぅうぅ・・・」 落ち着いたようなので、話を聞いてみることにした。 「どうして道路でゆっくりしてたの? 危ないよ?」 「どうろなんてしらないんだぜ! ・・・ゆっくりおやについてきただけなんだぜ・・・」 どうやらこの家族は車道についての知識がなかったらしい。 詳しく聞けば、以前は親まりさとたくさんの姉妹がいたが、 今日までに親れいむ1匹に子ゆっくり2匹の3人家族までに減ってしまったらしい。 あ、もう2匹か。 山でゆっくりできなかった家族が、ゆっくりを求めて降りてきたといった所か。 ゆっくりという生物は人間は元より、同サイズの野生動物と比べても脆弱であり、 子ゆっくり2匹がこの先生きのこるのは絶望的といえた。 「まりさ・・・。これからどうしよう?」 「ゆ・・・。ごはんのとりかたもわからないんだぜ・・・」 状況を察した少女が声を掛ける。彼女には当てがあった。 「ねね」 「「ゆ?」」 「良かったら私たちの学校に住まない? クラスで2匹、ゆっくりを飼う予定なの 君たちが来てくれれば、ちょうどいいんだけどな~」 「かうってなんなのぜ?」 「ゆっくりできる?」 少女が通う学校では命の尊さを学ぶため、学級毎に動物を飼うことが推奨されている。 彼女の学級では担任の愛子先生の強い希望で、近々ゆっくりを飼う事になっていた。 「うーん、毎日いっぱいご飯もらえて、みんなにかわいがってもらえると思うよー」 「「ゆゆ!!」」 途端に目を輝かせる子ゆっくり達。 明日からどうやってエサを確保すればいいのかも分からないゆっくりにとって、 これ以上ないほどゆっくり出来る条件に思えた。となれば乗らない手は無い。 「「ゆっくりつれていってね!!」」 「うん、任せて」 この子たちだけはゆっくりさせてあげよう。 そう思って少女は子ゆっくり達を力いっぱい抱きかかえた。 あの車のような理不尽な暴力から守ってあげる、と言わんばかりにきつく・・・。 「・・・!」 「・・・!」 「・・・・・・!!」 「・・・・・・!!」 「愛子先生なんていうかな~?」 「愛で子先生っ!おはようございますー!」 「おはよう。早いわね梨香さん。でも、メデコじゃなくてアイコ先生って呼びなさい」 「えー、でもその方が愛で派っぽくて先生らしいですよ~」 「・・・・・・出目金みたいでかわいくないじゃない(ボソ)」 「? なにかいいました?」 「なんでもないわ。ところで、さっきから抱えてるのって・・・」 「あ、はい! 実は・・・ってわあ!青くなってる!?」 慌ててホールドを解く少女。 「お゛ね゛え゛ざん゛の゛ゆ゛っぐり゛ごろじい゛い゛い゛ぃぃぃ!!!!」 「どぼじでごんなごどじだの゛お゛お゛お゛お゛!!?」 「ゆ゛っぐり゛あ゛や゛ま゛っでね゛ええ゛え゛え゛え゛!!!?」 「ご、ごめん、ごめんね? わざとじゃないの、ごめんなさいっ」 理不尽な暴力から開放されたゆっくりは梨香に罵詈雑言を浴びせ 少女・・・梨香はひたすら謝った。 「なるほど、それで拾ってきたのね」 「はい、ちょうど2匹ですし、他に家族もいないみたいで・・・」 「分かった。そういう事情なら野良ゆっくりを捕まえるより良いわよね」 「ありがとうございます!」 「じゃ、予定通りとりあえずはウサギ小屋に連れて行きましょう」 「あれ? 教室には連れて行かないんですか?」 「教室でおうち宣言されると困るからね。ウサギ小屋じゃ満足出来なくなるわ」 「なるほど。さすが元ブリーダーですね!」 これからのゆっくりライフに思いを馳せる2匹は、 頭上の会話などこれっぽっちも耳に入っていなかった。 「はい、ここが今日からあなたたちのおうちでーす」 「ゆー! ひろいね! ゆっくりできそう!」 「ゆゆ! わらさんがいっぱいあるよ!」 「まだ夜は寒いから寝るときはそれを使ってね。水のみ場はこっち」 「「ゆっくりりかいしたよ!!」」 「気に入ってくれたみたいね」 「ええ、よかったです」 「ゆっ? ごはんがないよ? ごはんがないとゆっくりできないよ!」 「おねえさん! まりさたちにごはんをもってくるんだぜ!!」 「後で係りになった子が持ってきてくれるから、その時にね」 「「ゆぐぐ・・・ゆっくりりかいしたよ!」」 「じゃあ、それまで3人で仲良くね!」 そう言って教師と生徒は去って行った。 「ゆゆ? さん? れいむたちはふたりだよ? おねえさんばかなの?」 「れいむ! おねえさんはいのちのおんじんなんだぜ! ばかなんていうなだぜ!」 「ゆゆっ! れいむがわるかったよ!」 「わかればいいんだぜ! れいむはゆっくりした子なんだぜ! すーりすーり♪」 「ゆゆー♪ おかあさんのぶんまでゆっくりしようねぇ! すりすりー♪」 すりすりする2匹の背後で、藁の山が、音を立てた。 「・・・そういうわけで、今日予定していたゆっくり取りは中止して、・・・」 子ゆっくりが最初に会った人間が梨香だったことは、幸運だった。 この町に限らず、山間の町村では愛で派の人間は少ない。 特に農家の人間には嫌われている。 現在でこそそれなりに対策されているが、 かつては田畑や「おうち宣言」の被害が数多くあった。 もしゆっくりが出会ったのがその被害者であったなら、最悪潰されていたかもしれない。 「梨香も物好きね~。わざわざゆっくりを拾ってくるなんて」 「久美ちゃんはゆっくり嫌いだっけ?」 「別に嫌いじゃないけど・・・。轢かれたのが猫とかじゃなくて良かったわ」 今月のゆっくり飼育係は、先生の話を聞いていなかった2名に決まった。 がさがさっ 「「ゆ!」」 「・・・」 白い体に赤い目を持った生き物が、こちらを見つめていた。 「ゆゆ? どこから入ってきたの!?」 「ここはれいむとまりさのおうちだよ!!」 「ゆっくりでていってね!」 「でていってね!!」 白い生き物-この小屋の先住民であるウサギは、だまってゆっくりを観察していた。 ひくひくひくひく 「きいてるの!! ゆっく・・・ゆぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛!?」 「どうしたのまりさ! ・・・ゆああああああ゛あ゛あ゛!?」 ウサギの鼻は結構高速で動く。 ゆっくりからしてみれば、とてもゆっくりしていない。 直視に耐えられる光景ではなかった。 ひくひくひくひくひくひく... 「ゆっくりしてね! ゆっくりしていってね!!」 「ゆっくりやめていってね!! もっとゆっくりうごいてね!!」 ヒクヒクヒクヒクヒクヒクヒクヒクヒク... 「「どぼじてゆ゛っぐりじでぐれない゛の゛お゛お゛お゛お゛!?」」 ウサギにゆっくりの言葉が通じるはずもない。 目を逸らせば良さそうなものだが、全く気づいていないようだった。 「ゆっくりー、どうしたの?」 「ゆっくりしてないなー」 心配そうにウサギ小屋を覗き込む少女と、どうでもいいと言わんばかりの態度の少女。 「お゛ね゛え゛ざん゛ん゛ん゛!! どういうごとな゛の゛おおおお!?」 「しろいのがいでゆっくりできないよお゛お゛お゛お゛!!!」 「ここからだして!! おうちかえる!!」 「あれ、言ってなかったっけ。ゆっくりを飼える大きい部屋がここしかないの」 ここから出ても生きていけないことを知っている少女達はゆっくりをなだめる。 「落ち着いて、ウサギさんは怖くないよ」 「ほら、エサ持ってきたよ」 「ゆ! やさいさんだ!!」 嘘泣きをしている子供よりも切り替えが早い。 「すごくゆっくりできるたべものだよー!!」 どうやら野菜の味を知っているらしい。 他の家族が全滅した理由と関係があるのだろうか。 「はい、どうぞ」 金網越しに、小屋の中へ細長く切った野菜を差し入れられる。 「ゆー! ゆっくりたべりゅぶっ!?」 「れいぶう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!?」 野菜の前で待機していたれいむを踏み台に、ウサギが野菜にかじりついた。 「あ、ウサギさんにたべられちゃった」 「どおしでごんなことする゛の゛おおおおお!?」 「いや、もともとウサギのえさだし。喧嘩すんなよ」 「ごめんね、でも大丈夫。いっぱいもってきたから」 「ゆぐぐ・・・。おねえさん! つぎはまりさたちにちょうだいね!!」 「ゆ゛・・・はやくおりてええぇえ゛ぇ!」 「うさぎさんはあっちいってね!!」 「まりさのごはんとらないでね!! とらねいでねえええ!?」 「ゆぎゃ!!」 「いつまでたべてるの゛お゛お゛お゛お゛お゛!!?」 それから、何度えさを差し入れても、全てウサギが食べてしまうのであった。 「えさ、なくなったね」 「うー、こんなはずじゃなかったんだけどな。ごめんね?」 「ゆっぐりでぎな゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」 「たべさせてよ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 「次から小屋の中で直接あげよっか」 「そうする・・・」 元ブリーダーの先生がいれば、もっとうまく面倒を見ることが出来る。 しかし、これは生徒達が命の尊さを学ぶ為に与えられた機会。 生徒達が試行錯誤し、自ら成長することこそが重要で 結果的に生き物が死んでしまったとしても、有意義な経験になる。 そのため、愛子先生を含めた職員達は、基本的に手を出さないことになっているのだ。 「じゃあ、また放課後に来るね」 「ゆ゛!? おいでがないでね゛え゛え゛え゛え゛!?」 「ほんとにうるさいなー。あんなののどこが好きなの?」 「まだごはんたべでないよお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!?」 「んーとねー・・・」 「「ゆ゛っぐりざせでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」」 2匹の叫びを聞くものは同居人のウサギだけだった。 つづく このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2478.html
緑に彩られた日光が木々の隙間に差し込み、人の足に汚されていない苔むした地面に恵みを与える。 鬱蒼とした森に風が吹き、隣り合う葉が擦れ合い、ざわざわと喧騒の音を立てる 暗い大気に柱の如く天上から貫く光が間隙を縫う。森が立てる声に釣られるように、 地から無数の影が姿を見せ、日光を浴びて木々と共に騒ぎ出した。 「「「「「ゆっくりしていってね!」」」」 ゆっくり姫 ここはもはや忘れ去られた地。幻想の彼方の、そのさらに奥に、余人を立ち入れずひっそりと暮らす小さな集落があった。 かつて人の世に起きた争いに敗れ、安寧を求めて旅立った人間の子孫が暮らしている。 村の男たちは狩猟により糧を得、女たちは男たちの居らぬ間に家と村を守る。 村を囲む森に住み着いたゆっくりと呼ばれる饅頭 -貿易のために諸国を旅する商人が立ち寄った際にその正体を聞かされた謎の生き物- は、町の近傍に棲むものと違い、無闇と村に近づかず、森で狩人に出会っても声一つ立てずに姿を藪の中に消す。 人とゆっくりの違いを知り、また人の力を知るがゆえに、森のゆっくりは野生に生きることを選んだのだ。 当然それまでに数年の月日と幾万の殺戮があったわけだが。 ゆっくりが現れてから村は少しだけ活気を増した。 獣を狩る術に長けた男達は容易くゆっくりを捕らえ,行商人に売りつけたり 乾燥させたゆっくりを得がたい甘味の補充に充て,または樹液に浸して固め女達の 身を飾る装飾品とするのだ(ゆっくりイヤリング・ゆっくり数珠etc)。 そんな村に起こる難事など、年に片手で数えうる小さな問題でしかなかった。 まして、ゆっくりが人に被害を成す話など、赤子の寝物語に等しいものだった。 そんな村に、この日、考えもしない大事件が起こった。 ゆっくり達の声が異常に騒いでいる。捕食種とされるれみりゃやふらんに襲われたときよりもずっと。それは群れへの警告ではなく,純然とした恐怖による叫びだ。餡子の詰まった中身でも本能は雄弁に,それがどれだけ恐ろしいものかを告げるのだろうか。 森の奥深くから,白靄を払い,押しのけ,それは強引に進んできた。 黒い何かうじゅるうじゅると身を這っている。地に落ち,草花を腐らせ黒い沁みを残してそれはゆっくりと村に近づいていた。 森に棲むゆっくりの殆どはそれに踏み潰されていた。それの速度はゆっくりのその名に等しい歩みなど比にもならず,逃げ惑い絶叫するゆっくりどもをぶちゅり,ぶちゅりと物言わぬ黒ずんだ餡子の屑へと変えた。 しかし,それだけでは済まなかった。潰され,黒い触手のようなものに触れたゆっくりは融けるように短い声を発し,『それ』の身体を覆う得体の知れぬ何かに混じっていく。 『それ』はゆっくりの餡子を身に纏っているのだ。 いつの間にか,絶叫は消えた。ただ這いずる『それ』だけが木々をなぎ倒し村へと走り去っていった。 その村の中を,トナカイのような獣に跨り森の方へと駆けゆく男の姿。 目鼻立ち良く、背もすらりと伸びた姿はなかなかの美丈夫であるが、 長老たち老人一同からは好ましくは思われていなかった。 彼こそは、都に生まれたならば必ずや後世に名を遺しただろう、 いわゆる虐待お兄さん,である。 都ならば珍しくもないが,自然に隔離された集落ではその存在は稀有である。 生まれながらにしてゆっくりの死骸を両手に握りつぶしたまま産声を上げたと云われる 虐待の権化とさえ呼ばれることもあった。 ゆっくりを獣とみなし、森と自然の一部として畏敬する村の習慣を破り、森に出ては人知れずゆっくり知れず、 ゆっくりを狩り殺している。大人たちは所詮ゆっくりのこと故,声を荒げるようなこともない。また,青年の弓の腕前は村随一であった。およそ三町(300m)の距離にあるゆっくりを一打ちで7匹,すべて眼球を撃ち抜いたほどのものである。 青年の名はアシタカ。いづれは村長(むらおさ)の嫡子として長の座に着かねばならぬ身だが、そんな自覚などどこ吹く風で 今日も物置のゆっくりを補充すべく、厩舎に繋ぐヤックルと呼ぶ赤獅子にまたがって森へと駆けていった。 その姿を乙女たちがやや頬を赤らめて見送る。 いつの世もどこにいっても,イケメンは得をする。 垣根を伝い,ヤックルを駆る内にアシタカの前方から籠を背負う乙女の一団に向き合った。 「あにさま!」 一人の乙女が声をかけた。アシタカの妹である。 「ちょうどよかった。ひぃ様が皆村にもどれと。」 アシタカは村を出る前に司祭を務める老婆からの伝言を伝えた。 「じぃじもそう言うの。」 「じぃじが?」 村の重鎮である老人がそういうのならば,何かしら異変が起きようとしているのではないか? ゆっくり狩りに懸想していたアシタカの楽しみは打ち切られたが,異変ならば仕方もあるまい。 「山がおかしいって。」 「鳥達が居ないの」 「獣達も」 「ゆっくりも!」 ゆっくりが居ない?例え姿を隠したとしてもあの騒々しい声が消えるとは…? 「そうか…じぃじの元へ行ってみよう。みなは村に帰りなさい。」 アシタカは乙女達を村に急がせ,自分はヤックルを森の方角へと急がせた。 村より離れ,森の入り口に立つ見張り台。その上にいるじぃじの元へアシタカは向かった。 じぃじは異様な気配を森から感じ,近づいている悪寒に注目していた。 アシタカが見張り台を駆け上がるとき,既に『それ』の気配は入り口にまで達していた。「じぃじ,あれはなんだろう?」 「わからん。人ではない。」 「村ではひぃ様が皆を呼び戻している…」 「きおった!!」 じぃじが鋭く叫んだ。同時にアシタカは背の弓を構え弓をつがえる。 森の入り口が暗く曇った。その光景はなんともおぞましいものであった。 樹が瞬く間に枯れ落ち,黒い触手がうねうねと這い回りながら飛び出てきた。 巨大な,まん丸なものが光る一対の瞳を村へと向け,森から這い出てきた。 それが通り過ぎた後は抉る様に草が枯れ果ててていた。 「タタリガミだ!!!!」 じぃじが絶叫した。 タタリガミと呼ばれたそれが森の影から這い出んとしたとき,黒い触手が日の光を嫌うようにそれの身体から剥がれた。 その姿にアシタカは息を呑む。 見たことのある.いや彼には日常に馴染みあるその形。帽子を無くしているも,泥と餡子に塗れようと,金色の髪を逆立て,憤怒の相で突き進む姿は,ゆっくりのものであった。都の辺りに住まうという,ゆっくりまりさの巨大種,ドスまりさの姿である。 一度は剥がれた黒い触手は,再びドスまりさの身体を包み込み,黒い塊となって村への直進を止めようとはしない。その方向には見張り台があり,下にはヤックルがいた。 ヤックルはあまりの恐怖に身が竦んでしまい,アシタカの声も聞こえない。 アシタカはつがえた矢をドスまりさではなくヤックルの足元へ放った。 風を切る感触に正気を取り戻したヤックルがすんでのところで触手から逃れた。 ドスまりさは全力で見張り台に体当たりし,崩れ落ちる台の上であやうくアシタカはじぃじを抱きかかえて飛び移った。 怯むことなくさらなる直進を続けるドスまりさは真紅に鈍く光る眼をただ村にのみ向けている。 このままでは村が危ない。アシタカはじぃじを置いて自分も駆け出した。 「アシタカー!タタリガミには手を出すな!呪いをもらうぞ!」 じぃじの呼びかけを無視し,ヤックルに飛び乗ってドスまりさを追う。 ドスまりさの進行を遮るように前に出たアシタカはドスまりさを鎮めようとした。 「鎮まりたまえ!鎮まりたまえ!名のあるゆっくりの主と見受けたが,何故そのように荒ぶるのか!」 まさか自分が虐待したゆっくりの仇討ちにでも来たのか?とアシタカは邪推したが,ドスはお構いなしに走り続ける。鬼気迫る,を通り越して凄まじい悪意を込めてドスは村を目指している。 そこに,先程アシタカが出会った乙女達が居た。ドスまりさは乙女達に気づき,進行を変えた。 これはいけない,と乙女達は逃げ出し,アシタカはさらに呼びかけを続けるもまったく通用しない。そのうち,乙女の一人が足がもつれて転んでしまった。覚悟を決め,短刀を抜き払うが,そこに,併走してヤックルの上から,アシタカは弓を引き絞った。 瞬間。放たれた矢は正確に眼と思しき部位に命中した。 跳ね回る触手。暫しドスまりさの動きが止まった。その隙に乙女達は体制を整えた。 触手は天を仰ぐように暴れ回り,いくつかの奔流と化してアシタカの方に伸びてきた。 一部が,アシタカの右腕に絡みつき,力いっぱいアシタカはそれをちぎり取った。 第二の弓をつがえ,触手が剥がれて剥き出したドスまりさの脳天に,矢が突き立たる。 もはやドスまりさに力は潰えた。奔流はべたりと落ち,大地に穢れた澱みを残した。 ドスまりさの身体がぐらりと傾ぎ,横転する。 アシタカは,掴まれた右腕に燃やされるような激痛を覚えていた。濃硫酸を浴びせられたように煙を立てて蒸発する触手の一部に腕をどうにかされたのあろうか。 と,そこに村の一団が迫ってきた。火を焚き襲撃に備えていた彼らはドスまりさが倒れたことを確認するとアシタカに元に駆け寄った。 ヤックルから降りたアシタカは激痛にうめきながら,皆が近づくのを拒んだ。 「触れるな…!これはただの傷ではない!」 一人の村人におぶさり,祭司たるひぃ様がやってきた。 「みんな,それ以上近づくでないよ!」 ひぃ様は瓢箪から水を注ぎ,アシタカに腕にかけた。さらに激痛が走り,必死に耐えるアシタカ。 ひぃ様は倒れたままぴくりともしないドスまりさに近づいた。深く一礼し,語りかける。「いづこよりいまし荒ぶるゆっくりとは存ぜぬも,かしこみかしこみ申す…。 この地に塚を築き,貴方の御霊を御祭りします。恨みを忘れ,鎮まり給え…。」 しかし,ドスまりさは光を無くした虚ろな瞳を向けて呪詛を吐いた。 「うぎぎぎぎぎぃぃ…ぎぎ…汚らわしい人間どもめ…!!我が苦しみと憎しみを知るがいい…!」 ドスまりさの身体は,途端に腐敗を始め,皮だけになり餡子をぶちまけて死んだ。 餡子の臭気が辺りに拡がる。凄まじい悪臭である。 その晩のこと。 貴重な灯油に明かりを燈し,村の重鎮たる者が合議の間に残らず集結した。 居並ぶ姿には沈黙のみ。老人達の視線は,中央に座すアシタカとひぃ様に向けられている。 ひぃ様は,占いを執り行っている。余人には知れぬ不思議な文様の布に,幾つかの石と,木切れ,獣の骨,凄まじい形相で凝り固まった琥珀ゆっくりの欠片を無造作に投げ, その吉兆を何やら伺っていた。 ぱちぱちと空気に弾ける火の粉の音に,やがてひぃ様の口が重く開いた。 「さて,困ったことになった。これは厄介なことだよ。かのゆっくりは,遥か西の国からやってきた。村より遠く,西の都からだよ。 深手の毒に気が触れ,身体は腐り,ゆっくりにあるまじき走りに走り,呪いを集め, タタリガミになってしまったんだ。 それほどの強い憎悪に支えられ,1頭のドスまりさが棲んでいた森を離れてここまでやってきたんだ。」 「アシタカヒコや。皆に,右腕を見せてやりなさい。」 頷いて,沈黙を保ったままアシタカは包帯を巻いた右腕を,ゆっくりと布を解き,居並ぶ老人の視線に差し出した。老人達はわずかに身を乗り出し,くぐもった苦鳴をもらした。 握りしめられた拳からやや上,黒ずんだドスまりさに咬まれた付近から,赤茶色の痣が 拡がっていた。 ゆっくりと吐き出された餡子がこびり付き,拭こうとも洗おうとも取れないのだ。 「ひい様…!これは…!」 「アシタカヒコや。お前には自分の運命を見定める覚悟があるかい。」 「はい。あのゆっくりに矢を射るとき,覚悟を決めました。」 「その餡子はそなたの肉に食い込み,骨まで腐らせる。やがてそなたを殺すだろう。」 ひぃ様のすべてをぶち壊すような宣言に,たまらず一人が叫んだ。 「どうにかならぬのですか!?このような,村をまとめる若者が」 「アシタカは村を守り,乙女達を守ったのですぞ!」 「ただ死を待つしかないのは…」 老人達の嘆きは次々と叫びとなった。かつて村にゆっくりが現れた当初,畑や森を荒らされ苦しめられた記憶を思い出していた。やがて静まるまでにどれだけ被害が出たか。 今,村長を継ぐべき青年がゆっくりの呪いに取り殺されようとは。 悔しさが怒涛のように渦巻いてゆく。 「誰にも定めを変えることはできない。 ただ,待つか自ら赴くかは決められる。見なさい。」 ひぃ様が何かを取り出し,ごろりと転がした。 鉄のようなそれは,丸い塊で,占いに用いる琥珀のゆっくりに劣らぬ苦痛の表情を浮かべていた。確かにそれはゆっくりである。しかし,その表皮のみならず中身までもが異常な硬度と重量を備えている。 「あのゆっくりの身体に食い込んでいたものだよ。骨を砕き,はらわた(餡子)を引き裂き,むごい苦しみを与えたのだ。」 アシタカの顔面に少しだけ興味の色が浮かんだ。虐待お兄さんとしては当然の反応かも知れぬが,明らかに場にそぐわなかった。誰も突っ込まないが。 「さもなくばゆっくりがタタリガミなぞになろうか。 西の国で何か不吉なことが起こっているんだよ。その地に赴き,曇りのない眼で物事を見定めるなら,あるいはその呪いを絶つ道が見つかるかもしれん。」 老人の一人が口を開いた。 「ゆっくりの戦に破れ,この地に潜んでから500猶予年。今やゆっくりにかつての勢いはない。(虐待の)将軍どものやる気も折れたと聞く…。だが我が一族の血も衰えた。 このようなときに,虐待の長となるべき若者が西へ旅立つのは定めかもしれん。」 アシタカは,短刀を取り出すと己の髪に当て,すぱりと髷を落とした。 老人が瞼を押さえる。色々と情けなくて泣き出したのだ。 「掟に従い見送らん。健やかにあれ。」 アシタカは一礼し,旅の準備を整えるべく祭殿を離れた。 ヤックルと共に,静まり返った村を横ぎるアシタカの元に,一人の少女が駆け寄った. 「あにさま!」 「カヤ!見送りは禁じられている!」 「お仕置きは受けます!どうか,これを私の代わりにお供させてください!」 少女が差し出したのは,光る石より作られた小さな小さな小刀であった。ゆっくりの形相が描かれている。否,ゆっくりが埋め込まれているのだ。 「大切な玉の小刀じゃないか!」 「お守りするようゆっくりを埋め込みました!いつもいつも,カヤはあにさまを想っています!きっと…!きっと!」 「私もだ。いつもカヤを想おう。」 アシタカはヤックルを駆り,真っ直ぐ村を離れた。 壮大な森の景色に,やがて朝日が光を撒く。 道なき道を駆け,餌を取りに降りてきたゆっくりを叫ぶ間もなく踏み潰し,餡子溜まりの中を西へと急ぐ。 ゆっくり姫 第一 続く こんにちは あるいはこんばんは もしくはおはようございます ごめんなさい。 VXの人です。 もののけ姫のパロともなんともいえないものを書いてみました。 虐待?でしょうか?なんでしょうか。 僕は疲れています。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/390.html
里から森に続く道を歩いていると、向こう側からゆっくりと跳ねてくる 1匹の饅頭が見えた。丸い頭の上に乗った黒い帽子から、まりさ種だとわかる。 その動きはとてもゆっくりとしていて、一歩一歩の跳躍の幅もとても小さなものだ。 ある程度近づいた所で、まりさも近づいてくる人間に気付いた。 このまままっすぐ跳ねて行けば、人間と正面衝突してしまう。 まりさはその場で垂直に跳ねながら、よいしょよいしょと横を向くよう少しずつ回転し 道の脇の土手に跳ねて行こうとしたところで、人間が目の前まで来てしまった。 「ゆ、ゆっくりしていってね!」 「ああ、ゆっくりしていってね」 道の脇の方を向くのにもその場で何回も跳ねなければいけなかったので、 すぐに人間の方を向く事が出来ず、横目で見ながら挨拶をしてくる。 顔には汗のような分泌液が噴出し、明らかに人間を警戒しているようだ。 「そ、それじゃまりさはもういくね?」 「まあ待て」 そそくさと、それで居てゆっくりとした動きで、土手に跳ねようとするまりさ。 跳ねる前の準備動作として体を沈み込ませた所で、その後頭部を掴んで止める。 掴んだ手に、明らかに他のゆっくりとは違うべたべたした感触が伝わり、 思わず跳ねのけてしまった。頬の部分で地面にべたっと落ちるまりさ。 「ゆっ、なにするの!?ゆっくりさわらないでね!」 さっきの感触はなんだったのか、頬の部分を下にして倒れたまま 起き上がろうとしないまりさの顔を恐る恐るつついてみる。 「ゆっゆっ、やめてね、つつかないでね!」 「うっわぁ、こりゃべたべただ」 少し押すと指が皮に沈み込み、引き抜こうとすると指に接触した部分の皮が うにょ~、と伸びて指について来る。ちょっと伸びたところで、 限界まで伸長した皮が元々あった場所に勢い良く戻って行き、 皮が戻ってきた勢いで表面がぶよよんと波打つと「ゆひんっ」と声を上げる。 ゆっくりの皮はもちもちとして、手に触れれば軽く吸い付くような感触もあるが、 ここまでべったりとくっ付いてくる感触は初めてだった。 今もまりさは頬を地面につけたままの姿勢で、足を少し地面から浮かせているが そこには砂や葉っぱ、アリのように小さい虫などが沢山くっ付いている。 足の裏もべたべたとして、地面をしっかり蹴る事が出来ないので ゆっくりとした動きでしか歩けなかったのだろう。 帽子を掴んで手前に引くようにし、まりさを元の姿勢に戻した後、 底面の近くを持ち上げて顔をこちらに向き直させてやる。 体と違って、帽子はそんなにべたべたしていない。 逃げられないと断念したのか、まりさは居づらそうにもじもじとする。 「ゆゆ…にんげんさんはゆっくりできるひと?」 「ああ、お前家族はどうしたんだ?」 「ゆ、ここにはいないけど、もりにいるよ」 「そうか、その、お前の体はべたべたしてるけど、家族もみんなそうなのか?」 「……」 このゆっくりに家族が居るなら、揃ってべたべたしたゆっくりなのだろうか、 疑問に感じて聞いてみると、まりさは俯いて黙ってしまった。 聞いてはいけない事を聞いたのだろうか。人間と饅頭の間に沈黙が流れる。 何か違う事を聞いてみるか、そう思った矢先まりさがぽつぽつと話しだした。 「おかあさんもおねえちゃんも、まりさみたいにべたべたしてないよ まりさみたいにべたべたしてるゆっくりは、ゆっくりできないんだって…」 「そうなのか?さっきの歩きを見るに、他のゆっくりよりもよほどゆっくりと跳ねていたけどな」 「ゆ?まりさゆっくりしてる?」 「ああ、多分」 そう答えてやると、少し笑顔になり話を続けてくれた。 このまりさは父親まりさと母親まりさの間に生まれた子供の1匹で、 姉が「たくさん」いたのだそうだ、ゆっくりだから正確な数は覚えていないらしい。 生まれた子供の1匹に触れてみると実にべたべたとしており、親も姉も驚いたそうだが、 親はそのまりさを育てる事を放棄はしなかった。 だが子ゆっくりには、少しでも異常な所があるゆっくりに対して、 たとえそれが自分の姉妹でも執拗に嫌がらせや暴力を行う性質がある。 例によって「こんなゆっくりできないまりさはゆっくりしんでね!」と体当たりもされたが、 ゆっくりの力で押しつぶされても、餅のような皮は破れたりせず、逆に姉の方が べたべたした肌に引っ付いて離れられなくなり、「な゛んではなれられない゛のぉぉ!?」 と泣き出してしまったそうだ。 親もこのまりさは異常だと、やっかいに思っていたのだろう。 子ゆっくりはもう少しで成体になれる所まで成長すると一人立ちするものだが、 このまりさは子ゆっくりより少し大きい程度に育ったところで 「もうまりさもいちにんまえだね!」 「そうだね、もうりっぱにひとりだちできるよ!」 「ゆっ!?まりさまだおおきくないよ?」 「だまってね!まりさはもうおとなだからでていくんだよ!」 と追い出されてしまった。先に生まれた姉達がまだ誰もひとり立ちしていないのに、である。 姉達も、どんなに体当たりしても全く死なない、気に食わないべたべたまりさが居なくなると ニヤニヤしながら見送ったのだった。 巣から追い出されたまりさは森をさ迷うが、べたべたした体では素早く動けず、 雑草や花、ゆっくりとしたいも虫くらいしか食べる事ができない。 そんな餌も目の前で他のゆっくりに横取りされ、餌を求めて歩いていたら この人間の里に通じる道に迷い出たのだそうだ。 「ははあなるほど、大変だったんだな」 「ゆ…」 話して辛い事を思い出してしまったべたべたまりさは、また笑顔を消して俯く。 肌の質感が違うせいで、他のゆっくりは助けてくれないどころか迫害もうけたのだろう。 粘着質な肌には裂傷などは見えないが、投げつけられたのか小さい石が付いている。 この肌、どれくらいくっつくんだろう。 思い立っては試さずに居れぬ。と帽子の先端を掴んで上に持ち上げる。 髪の毛にも粘着性があるのか、帽子にくっ付いた髪が持ち上がり、 髪に引っ張られて頭頂部がにゅー、と上に伸びる。 「ゆっ!?やめてね、まりさのぼうしをひっぱらないでね!」 悲鳴をあげるが、ある程度引っ張ったところで帽子と髪の接着面が剥がれ、 引っ張られていた頭頂部がぶよんと戻って来る。 「かえして!まりさのおぼうしかえして!」 自分の上にある帽子を見上げながら、上下にぼよんぼよんと沈んだり伸びたりするまりさ。 粘着性が強く地面をうまく蹴る事の出来ない足では、帽子に届く跳躍が出来ない。 そのまりさの頬、先ほど地面に落ちて細かい砂が付いている面を押し、 ころんと横向きに転がしてみる。 「ゆ、ゆゆっ?」 今まで経験した事の無い横回転、視界がぐるんと回転して、まりさは心臓が飛び出そうになる。 1回転しただけで涙目ではっはっと息をつくまりさの両頬や横髪、頭頂部には細かい砂が びっしりと付いている。綺麗な髪が砂だらけになったのが嫌なのだろう、 水を被った犬がするように、全身をぶんぶんと横向きに振って砂を飛ばそうとするが 一向に離れる様子がない。 「ゆうっ!とって!ざらざらとってね!」 「あっはっは」 「なんでわらってるのぉぉ!?ざらざらとって!ぷくぅぅ!」 髪の汚れの不快感に耐えられず、いやいやをするように顔を振るのが微笑ましい。 つい笑ってしまうと頬を膨らませて怒りだした。 肌が餅の様に柔らかいとは言え、頬を膨らませたサイズは他のゆっくりとそう変わらない。 膨らんだ事で下腹部、あごに当たる部分も持ち上がったのでそこに手を当て、 「そいっ」 「!? ゆぶっ!」 ちゃぶ台返しの要領で、今度は縦回転させてみる。 ぐるんと空が下に流れて、上からやって来た地面が顔にかぶさる。 ころんと1回転したまりさの顔面には、やはりびっしりと細かい砂が張り付いていた。 まぶたは閉じたのでゼラチン質の眼球は無事だが、口には少し砂が入ったようだ。 「ぺっ!ぷっぺっ!なにするのぉぉ!?もうざらざらやだぁぁぁ!」 目をうるうるさせて体を横にゆさゆさ揺するまりさ。 人間の子供が手をじたばたさせて、ダダをこねるのと同じような動きなのだろう。 このべたべた肌は面白い。家に持ち帰って砂を洗い流したら飼ってやろうか。 そんな事を考えていると、いつの間にかまりさの背後まで近づいて来ているものがあった。 短い足でもたもたと歩き、ちょっと息が上がっているのか紅潮した顔でニコニコしている。 「うっうー、れっみりゃっだどぅー!にぱー」 ブボボッ! 聞いてもいないのに自己紹介をして、間髪置かず盛大な音の屁をするれみりゃ。 目の前のまりさは、ざらざらとってぇぇ、と泣き叫んでいるので背後の豚には気付いていない。 あまりの光景に何も言えず見ていると、レディーである自分の美しさに声も出ないのだと 勝手に判断したれみりゃはご満悦の表情を見せる。 「れみりゃにぶっでぃん、もっでくるんだどぅ、ぶっでぃ~ん!」 「うっわぁ」 よだれをたらし、ゆさゆさと太った体をゆさぶって踊るれみりゃの汚さに唖然としていると むう、とふくれっ面になる。 このまま苦情を言ってくるかと思ったら、自分と人間の間でゆんゆんと泣くまりさに目をつけた。 「うー!あっまあま、た~べちゃ~うぞ~」 「ゆゆっ!?」 ゆっくりの餡子の味を知っているれみりゃが、がっしりとまりさを持ち上げ、 後頭部に狙いを定めて口を開く。べたべたまりさには細かい砂が大量についているが、 まったく気付こうともしない。 「あも゛っ!…む゛も゛?む゛っむ゛ー!」 「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!」 れみりゃの牙がべたべたまりさの後頭部に刺さるが、あまりにももちもちした肌は噛み切れず さらに髪についていた砂の味に強い不快感を感じるれみりゃ。 吐き出そうとしても、唇にまで強く張り付いたまりさの頭は離れない。 「む゛ん゛む゛──っ!」 「いだい!はな゛ぢでぇぇぇぇ!」 何とか引きちぎろうと、まりさを掴んだ短い両手を一生懸命下にのばすが、 まりさの体はうにょーん、と伸びるばかりである。 さっき指でつついた時はあそこまで伸びなかったのに、他のゆっくりが苦痛や絶望で 餡子の甘みを増すように、べたべたまりさも苦痛で体の餅っぽさを増すのだろうか。 「…………!!」 「も゛うやへ゛て゛え゛ぇぇぇぇぇ!」 一向に口から離れる事のないまりさをほおばったまま、れみりゃの顔色は紫色になっていった。 手に付いたまりさを離そうともがいて暴れるうちに、まりさの体は縦にも横にも伸ばされ いびつな形の肌色の凧に泣き叫ぶ顔と、いくらかの金髪が生えた不思議な生き物へと変貌している。 これを持ち帰っても、もう元の形には戻せないだろう。 「ゆ゛!?どごいぐの?おいでがな゛いでぇぇぇぇぇ!」 珍しいゆっくりを手に入れられなかったのは残念だが、白目を向いて倒れるれみりゃと ぎゃあぎゃあと泣き喚く平面まりさはほっといて帰る事とした。 おわり。 その他の作品。 ゆっくりいじめ系791 ゆっくりと瓶 (fuku2335.txt) ゆっくりいじめ系813 赤ちゃんのお帽子 (fuku2368.txt) ゆっくりいじめ系822 ドスの中身 (fuku2386.txt) ゆっくりいじめ系851 どちらかのお帽子 (fuku2437.txt) お帽子の人? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/2476.html
れいむはれいむとまりさの間に生まれた四番目の末子だ。 先に生まれた三匹の姉たちに続き、母の頭から生えた茎から落ち、潰れないように敷かれた藁の上で第一声を高らかに叫んだ。 「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」 母たちは元気に生まれた子供たちの姿に感極まって涙を流し、子供の声に応える。 「ゆっくりしていってね!!!」 家族の始めての挨拶。れいむは嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。何故嬉しいのかもわからないほど嬉しかった。 彼女の姉妹たちも、最後に生まれた妹に嬉しそうに挨拶する。 「ゆっくちしちぇいっちぇね!!! まりちゃおねーちゃんだよ!」 「れいみゅ! ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」 「ゆゆ~ん。すっごくゆっくりしたあかちゃんだね!」 「こんなにかわいいあかちゃんたちがうまれてしあわせ~♪」 「おきゃーしゃん! おにゃかちゅいた!」 れいむの姉であるれいむが腹の音を鳴らしながら母に訴える。 そういえば、とれいむは生まれてから何も食べていなかったことに気付いた。 姉のまりさたちも腹の音を鳴らす。れいむ自身もお腹がとても空いていた。 「ゆゆっ! そうだね、ごはんにしようね!」 末子のれいむが生まれたことにより頭から落ちた茎を、母が口の中に含む。 子が実った茎は栄養満点かつほんのりと甘苦く、生まれた子の最初の食事としてこれ以上のものは無い。 ただ茎は固く、まだ噛む力の弱い子では噛み切ることができない。そのため母親が茎を噛んで柔らかくするのだ。 母親が茎をぺっと吐き出す。 「さあ、ゆっくりたべてね!」 「いちゃちゃきみゃーす!」 「ゆゆっ! おねーしゃんじゅるいよ! れいみゅもたべる!」 「おちびちゃんたち、あせらなくてもたくさんあるからね!」 「むーちゃむーちゃ、……ちあわちぇ~♪」 早速一口食べた次女まりさが、生まれて初めて食べる茎の美味しさに涙を流す。 れいむも口を大きく開けて茎にかぶりつく。 「むーちゃ、むーちゃ……」 茎を噛めば噛むほど、ほんのりとした苦味が口の中に広がり、やがて苦味が甘さに変わっていく。 これが食べるということ。これが美味しいということ。 「ちあわちぇ~♪」 初めての食事に、れいむは涙を流して高らかに叫んだ。 食事が終わって腹を満たせば、次は親子のスキンシップ。 自分よりも何倍も大きい母に頬ずりする。 「しゅーりしゅーり♪ ちあわちぇ~」 「すーりすーり♪ しあわせ~」 肌を合わせるたびにれいむの体の奥が暖かくなっていく。 今の自分は物凄くゆっくりしていると感じられる。 それは母も同じようで、れいむに応じるように、ゆっくりと頬ずりし返す。 「れいみゅ、まりしゃとしゅーりしゅーりしよう!」 姉のまりさが後ろから声をかけ、返事をもらう前にれいむに頬ずりをした。 れいむは驚いたが、姉からの頬ずりも暖かかった。 「ゆっ! まりしゃおねーしゃんもいっしょにしゅーりしゅーりしゅるよ♪」 れいむはやがて目の裏が重くなっていることに気付いた。 「ゆぅ……れいみゅねみゅくなっちぇきちゃよ……」 「ゆっ! そろそろおねむのじかんだね! おふとんをひこうね!」 そう言って母は藁を敷き直して、そこにれいむを置く。固い地面で寝るよりも藁の方が気持ちがいいのは獣もゆっくりも同じである。 「ゆっ! まりしゃはみゃだねみゅくにゃいよ! もっちょ……ゆひゅぁ……あしょびちゃいよ……」 次女のまりさがそう言うが、れいむ以上に眠そうだ。 母は笑って、まりさも藁の上に乗せた。 「きょうはもうおやすみして、あしたたくさんあそぼうね!」 「おちびちゃんたち、ゆっくりおやすみなさい!」 「ゆぅ~」 「おやしゅみなしゃい……」 れいむが生まれて初めて見た夢は、家族と一緒に広大な草原でゆっくりする、とても幸せな夢だった。 翌日、れいむは母の声でゆっくりと目を覚ました。 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆぅ~……? ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」 「ゆっくちしちぇいっちぇね!!! れいみゅはにぇぼしゅけしゃんだね!」 他の姉妹たちは既に起きていたようだ。 寝ぼけ眼で巣の中を見渡すと、親まりさの姿が無い。 「おきゃーしゃん、ぱぱがいにゃいよ?」 「ぱぱはかりにいってるんだよ! おいしいあさごはんをもってきてくれるからゆっくりまってね!」 「ゆゆっ! あしゃごはん!」 寝ぼけていた頭が一瞬ですっきりした。 「おきゃーしゃん! おねーしゃん! ゆっくちしちぇいっちぇね!!!」 笑顔の朝。 「それじゃあぱぱがかえってくるまでおうたをうたおうね!」 「おうたはゆっくちできるの?」 「ゆっくりできるよ! おかーさんがまずおうたをうたうから、おちびちゃんたちはゆっくりきいてね!」 「わきゃったよ!」 「それじゃあいくよ! ゆ~ゆゆ~ゆ~♪ ゆゆっゆゆ~♪」 親れいむの口から流れる言葉は、まだ幼いれいむの心に懐かしさをかもし出す。 昨日頬ずりしたような暖かさが、母の歌を聞いていると体の奥から湧いてくるのだ。 「しゅごくゆっくちてきりゅよ! おきゃーしん、おうたしゃんはゆっくちできりゅね!」 れいむがそう言うと、次女まりさが一跳ねして言った。 「まりしゃもおうたしゃんうたいちゃいよ!」 「それじゃあみんな! いっしょにうたおうね!」 「ゆっくち!」 「ゆ~ゆゆ~ゆ~♪」 『ゆ~ゆゆ~ゆ~♪』 「ゆゆっゆゆ~♪」 『ゆゆっゆゆ~♪』 「ゆっ! すごくゆっくりしてるおうただね!」 「ゆっ! ぱぱがかえってきちゃよ!」 帽子を膨らませて、親まりさが巣に戻ってきた。 「ぱぱー! あしゃごはんはやきゅちょうだい!」 「ゆふふっ、れいむはくいしんぼうさんだね! それじゃあごはんにするからてーぶるをひかなきゃね!」 「おちびちゃんもてつだってね!」 大きな葉を口にくわえながら親れいむが言う。 葉をテーブル代わりに地面に敷き、そこに親まりさがとってきた食料を置いていった。 「ゆっ! たくしゃんありゅよ! たべきりぇにゃいよ!」 「たべきれないぶんはほぞんしておひるごはんにするんだよ! それじゃあゆっくりたべようね!」 「ゆっくりいただきます!」 『ゆっくちいちゃだきみゃす!』 親まりさの持ってきた食料はどれもこれもれいむの初めて食べるものばかりで、一つ口にするたびに口の中に味が広がっていく。 新芽、花、芋虫、茸。何を食べても、 「ちあわちぇ~♪」 という言葉しか出てこない。 子供たちのお腹がいっぱいになり、食べきれなくなった頃には、親まりさが集めた食料は半分になっていた。 「おにゃかいっぱい~」 「たくさんたべたね! ゆっ、おくちがよごれてるよ! ゆっくりきれいにしようね! ぺーろぺーろ♪」 「ゆふっ! くしゅぐっちゃいよおきゃーしゃん♪」 「ゆっ、まりしゃもぺーろぺーろしちぇね!」 「れいみゅもー!」 「ゆふふ、じゅんばんだよ!」 腹が満たされた後はみんなで遊ぶ時間。 れいむは次女まりさと追いかけっこをしたり。 姉れいむと今日教わったばかりの歌を歌ったり。 長女まりさと頬ずりをしたり。 親まりさの帽子の上に登ったり。 親れいむの髪に埋もれて昼寝をしたり。 腹が空いたらお昼ごはん。 朝食べ切れなかった分を食べきって、口についた食べかすは母になめ取ってもらう。 親まりさは晩ごはんをとりに狩りへ行き、れいむはまた姉妹たちと遊び始めた。 ああ、嬉しい。 れいむは心の底から叫んだ。 「ちあわちぇ~!」 * * * * * * 「感想を聞きたいんだ」 「…………」 「君は生まれたときから一人ぼっちだ。目が覚めても母親はおらず、姉妹もいない。挨拶をしても誰も応えてくれない」 「…………」 「生まれて初めて食べたものは味も何も無いサプリメントだ。ぱさぱさとしていて、あの茎のようなみずみずしさは無い」 「…………」 「頬ずりする相手もおらず、壁を相手にしようとも壁は壁だ。……ガラスの壁は暖かくもなんともなかったろう」 「…………」 「夜は固い地面で眠ったね。ガラスの床は冷たくて固くて、一緒に寝る相手は誰もいない」 「…………」 「永遠亭から取り寄せた胡蝶夢丸ナイトメアはどうだった? いい夢は見れたかな」 「…………」 「朝目覚めればそこは変わり映えの無いガラスの部屋。もちろん周りには誰もいない」 「…………」 「歌なんて、今初めて聞いたんだろう」 「…………」 「朝ごはんはやっぱり味の無いぱさぱさしたサプリメント」 「…………」 「口についた食べかすを舐め取ってくれる人なんていない。仕方が無いから自分で舐め取ったんだっけ」 「…………」 「追いかけっこをしようにも、追う相手も追われる相手もいない」 「…………」 「母親の姿を幻視しようとしていたね。その度に私が君に現実を見せてあげた。ゆっくりと語りかけてあげたよね」 「…………」 「おっと、そういえば君、去勢したよね。もう君は子を成すことはできなくなってたよね」 「…………」 「ねぇ、感想を聞きたいんだ。頑張って撮影したんだよ」 「…………」 「このビデオは愛で派の人にも楽しめるようにしたつもりだし、虐待派の人は虐待に使えるし燃料にもなると思う」 「…………」 「だから、感想が聞きたいんだ。ほかならぬ君に感想が聞きたいんだ」 ビデオは幸せな子れいむの姿を映し続ける。 親から生きていくための知識を学んで、ゆっくりと成長していく。 やがて独り立ちして、あるドスまりさの群れに加わることになる。 その群れの参謀ぱちゅりーのつがいとなったれいむはやがて五つの実を生やす。 かつて子供だったれいむが、新たな命を宿すまでのドキュメンタリー。 「君は、このビデオを見てどう思った? 率直な感想を教えてくれ」 抱えているガラスの箱に入った子れいむに語りかけながら、私はビデオを巻き戻す。 もう一度見せれば、このれいむも何か感想を言ってくれるだろうか。 何も言わず涙を流すれいむを見ながら、私は再び再生ボタンを押した。 ども、EGSと名乗りつつも田吾作の人といったほうがわかりやすいかもしれない奴です。 ぬるくいじめてみた。 疲れた。 レポート書かなきゃ。 他人の不幸は蜜の味、なら他人の幸福は? このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/1919.html
「ふたば系ゆっくりいじめ 918 ゆっくり健康法/コメントログ」 ほすぃ・・・ -- 2010-06-15 01 20 53 愛で健康法も作って。 -- 2010-07-18 02 51 26 愛で野郎は死ね。 -- 2010-09-11 20 38 05 ゆっくりサンドバック良いなぁ。 有ったら私もどんどん殴っちゃいそうだw -- 2010-11-25 09 43 59 ↓↓なぜお前はそうやって 「愛で野郎は死ね」とか言ってるんだ? 十人十色、人それぞれ好みがあるんだから別にいいじゃないか 「愛でSSは邪道」とか「虐待SSはキチガイSS」 とか言ってるやつは他にもいるけどさ、 それはただ単に自分の価値観を否定だれたくないだけだろ? 自分の価値観が他人と違うのを認めたくないだけだろ? 「他人は他人、自分は自分」 それでいいじゃないか、相手と自分の価値観が違っても それはただ単に相手の感じ方がちょっと違うだけの話だろ? 俺は別に「お前は間違ってる」とも「お前は正しい」とか言うつもりは無いさ ただこれだけ言っておくぞ 「他人の価値観を簡単に全否定するな」 これは警告でもあり忠告でもあるからな -- 2011-09-17 22 57 10 ↓うんいちりある -- 2011-12-04 19 47 11 ↓うんちりある に見えた -- 2012-02-01 00 11 43 ↓うんある -- 2016-01-10 13 23 13 うんちりある笑 -- 2016-09-04 15 40 10
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1227.html
(男とれいむ) 村の外れのあばら家。そこに住む一人の男とゆっくり。 男に身寄りは無く、唯一家族と呼べそうなものは一緒に住むゆっくりれいむのみ。 暮らしは貧しくとも、一人と一匹仲良く暮らしていた。 男は田畑を持たぬ水呑み百姓。この村一番の豪農の下で働いている。 両親が死んで借金だけが残り、自暴自棄な生活をしていたところを拾ってもらった。 それからしばらくして、偶然家の前で動けなくなっていたゆっくりを助け、それ以来一緒に住んでいる。 「ただいま。今帰ったぞれいむ。ひとりで寂しかっただろう。」 「ゆ!おかえりなさい!ゆっくりいいこにしてたよ!」 「今日は疲れた。だが仕事がひと段落ついた。明日は休みだ。朝から一緒に遊んでやるぞ。」 「ゆ!ほんと?」 「ああ、もちろん!」 「ありがとうおにいさん!じゃあきょうはゆっくりやすんでね!」 男はれいむを実の子の様に可愛がり、れいむも男によくなついた。 人づきあいが苦手な男であったが、れいむにだけは気を許し、家には常に笑いが絶えなかった。 ただれいむだけは、昼間男がいない間、森の方を眺めては溜息を吐いていた。 もちろんその理由に男が気づく訳がない。これが偽りの幸せである事を知っているのはれいむだけ。 (突然の来訪者) 翌日。男はれいむと一緒に村の外へ遊びに出かける事にした。 れいむを腕に抱き家の外に出る。するとそこに待っていたのはれいむより一回り大きいゆっくりまりさ。 まりさに気がつくと急にれいむの顔色が変わる。しかし腕に抱いている為男は気付かない。 すっかり青ざめているれいむを無視して、まりさは男に話しかけた。 「ゆっくりしていってね!!!」 「やあ。ゆっくりしていってね。どうしたんだこんな朝早くに?」 「まりさたちはれいむのおともだちなの!ゆっくりあそびにきたよ!」 「おお、そうだったのか。俺のいない間に友達を作ってたんだな。 じゃあ邪魔しちゃ悪いな。俺は家でゆっくりしてるから、れいむは友達と遊びにいったらいい。」 「ゆ・・・おにいさん・・・」 「ゆ!ありがとう!さあれいむ!いっしょにゆっくりしにいくよ!」 一瞬、男に助けを求めるかの様な表情を見せたれいむ。そんなれいむをまりさ達は強引に連れていく。 その様子を特に不審に思わず見送った男は、「計画が狂ってしまったな。さてこれからどうしようか。」 などと考えながら家に入った。一方まりさ達は人気の無い森にれいむを引っ張っていく。 「ゆ。ここらへんでいいか。ここならだれにもきかれないぜ!」 「ひさしぶりだぜれいむ。あのにんげんとはうまくやってるのか?」 「・・・・・・」 「だまってちゃわかんないんだぜ!こどもがどうなってもいいのか?」 「ゆ・・・おにいさんは・・・れいむにとってもやさしくしてくれるよ・・・」 「それはよかったぜ!じゃあいつでもさくせんかいしできるな!」 「『おやぶん』からのでんごんだ!『ひつようなものはそろった。かぎがてにはいりしだい、さくせんかいし!』 これだけじかんをやったんだ。かぎのありかはしらべてあるんだろうな!」 「ゆ・・・でも・・・」 「でも?なにいってるんだぜ。おまえじぶんのこどもがどうなってもいいのか?」 「ゆ・・・わかったよ・・・だいじょうぶ・・・かぎがしまってあるところはわかってるよ・・・」 「わかればいいんだぜ!おまえがしっかりやれば『おやぶん』もこどもをかえしてくれるぜ!」 「・・・・・・」 親分とは村の近くの森をシマとする巨大まりさだ。二年ほど前にこの地にやって来た。 体がでかくて喧嘩慣れした手下共を連れ、あっという間に元々この森のリーダーであったゆっくりを追い出した。 今ではこのあたりのゆっくりは、親分にみかじめ料を払わなければゆっくりする事もできない。 逆らったら人間に売られてしまう。まりさ達は人間に飼われたゆっくりを通じて人間と交渉する事までしていた。 自分達に逆らうものやシマの外に遠征に出かけて捕らえたもの、それを人間に売るのだ。 もちろんゆっくりを高値で買う者などほとんどいない。 まりさ達は村の周囲のゆっくりをしっかりと押さえて、ゆっくりが村の田を襲わぬ様目を光らせていた。 人間はその事への対価としてゆっくりを買い取っていた。 その親分が次のシノギとして選んだのが、村の豪農の蔵に盗みに入る事だった。 自分の商売相手の物、しかも人間の物を盗むなど正気の沙汰では無いが、実は理由があった。 人間の側からオファーがあったのだ。盗みの手順。揃えるべきもの。蔵の鍵を持つ人物。 すべてを教え、その上報酬まで払うと言う。親分はその話に乗った。 今年出産したばかりのれいむの赤ゆっくりを人質にとり、計画を手伝わせる。 れいむが蔵の鍵を持つ男に取り入り、鍵をしまっておく場所を調べる。 その間、食い物で懐柔した身体つきのれみりゃに鍵の開け方を覚えさせる。 そして蔵の中の米を運ぶのに適した、帽子を持つまりさ種を大勢あつめる。 れいむの元に来たのは準備が整った事を知らせる親分の手下。鍵の在り処の確認の為やって来た。 鍵の位置も分かった。いよいよ今夜から作戦決行だ。 まりさ達とれいむは何も知らぬ男の元へ帰る。 「おお、おかえり。早かったね。もっとゆっくりしてきたら良かったのに。」 「ゆ・・・」 「ゆ!もうじゅうぶんゆっくりしたよ!またこんどゆっくりあそびにくるよ!」 「ゆ!またねれいむ!おにいさんも!またあそびにくるよ!」 「じゃあな。昼間は俺がいなくてれいむも寂しいだろうから、時々遊びに来てやってくれ。」 「うん!さようなら!」 (その日の夜) 男の夜は早い。明日も朝早くから仕事があるし、なにより貧乏暮らしには明りに費やす余裕が無い。 その日も日が落ちて暗くなった頃には床につき、しばらくすると鼾をかき始めた。 男が完全に寝入ったのを確認したれいむは鍵を持って家を出る。待っていたのは昼間来たまりさ達。 「ちゃんともってきたか?」 「ゆぅ・・・もってきたよ・・・」 「そうそう。それでいいんだぜ。こどものことがかわいけりゃ、まりさたちのいうことをちゃんときくんだぜ!」 「ゆぅ・・・」 「さあ!かぎはてにはいった!それじゃやろうども!いくぜ!!!」 「「「「ゆーーーーーーーーーーー!!!」」」」 まりさ達は早速仕事にかかった。れみりゃが鍵を開け、駆り集めたまりさ達が米を運ぶ。 親分の手下達は見張り役。荷物が重いと泣き言を言うゆっくりに制裁を加えて働かせる。 ある程度運びだしたら再び鍵を閉め、鍵をれいむに返して元の場所に戻し、森へ帰っていった。 こんな事がしばらく続いたある日、事件は起こった。 (発覚) 「ぐはっ!」 「てめえもしぶとい野郎だな。いいかげん白状したらどうだ?」 「だから!俺じゃありませんって!何で俺が蔵の米を盗まなくちゃならないんですか!」 「惚けるのもいいかげんにしろ!お前以外にこんな事する奴はいねーんだよ! 俺たちゃ大旦那の下で働きだしてもう十年以上経つ。お前以外全員だ。 今までこんな事は無かったんだ。一年前、お前がここで働き始める前まではな!」 「大体俺は元からお前の事が気に入らなかったんだよ。 お前の親父は真面目ないい奴だった。それが原因で騙されて借金背負ったがな。 そんな奴だから俺達は金を出し合って高利貸しからの借金を肩代わりしてやった。」 「あいつは感謝してた。必ず返すって言ってたぜ。嘘は吐かない奴だったしな。だから利子もあまり付けなかった。 それなのに息子のお前ときたら。親父とお袋が死んで、その後なにやってた! 碌に働きもしねえで、ゆっくりを捕まえては殺して遊んでるだけだったじゃねえか!」 「別に金の事を言ってるんじゃねえ。俺たちゃお前のその態度が気に入らなかったんだよ! 確かに大変な額の借金だが、すぐに返せとは言わねえ。真面目に働いて少しづつ返してくれ。 葬式の日にそう言ったはずだ。それなのに・・・お前は!」 「そんなお前を可哀そうに思ったお嬢さんが、大旦那を説得してくれて、 それでここで働くようになったんじゃないか。それなのに・・・ お嬢さんや大旦那の信頼を裏切るなんて、お前にゃ人の心がねえのか!」 「待ってください!だから、蔵の米を盗んだのは俺じゃな・・・ぐえ!」 「いいかげんにしろ!じゃあお前以外にいったい誰が米を盗めるって言うんだ!鍵が壊された跡はねえ。 蔵の鍵を持ってるのは大旦那と若旦那、それに倉庫番のお前しかいないんだよ!てめえがやったんだ!」 「ぐはっ・・・」 「さあ吐け!盗んだ米をどこへやった!もう売ったのか?じゃあ売った代金はどこにある!」 「信じて・・・信じて下さい・・・俺じゃ・・・俺じゃない・・・」 「まだ言うか!!!」 「もうその辺にしないか。」 「あ!若旦那・・・しかし・・・」 「こいつを倉庫番に指名したのは私だ。私にも責任はある。ここは私に預けてくれないか?」 「若旦那がそうおっしゃるのなら・・・」 若旦那に諭され男達は仕事に戻る。 「大丈夫かい?」 「すみません若旦那。信じて下さい・・・俺じゃない・・・俺じゃないんです。 世話になっている若旦那や大旦那、それにお嬢さんを裏切るなんて・・・ そんな事できるはずありません。誓って・・・誓って俺じゃない・・・俺じゃないんです・・・」 「わかっているよ。私はこの一年お前がどれだけ真面目に働いてきたか、ちゃんと知っている。 お前は心を入れ替えた。こんな事できる人間じゃない。皆よく調べもせず勝手な事を・・・」 「じゃあ・・・」 「だがそれでは皆が納得しないんだ。親父は小作の中の誰かがやったと思ってる。 皆はお前が犯人だと思ってる。私一人が信じていても無理だ。いずれお前は犯人にされてしまうだろう。」 「・・・・・・」 「村を出るんだ。心配ない。当分の生活に必要な金は渡す。今夜の内に村から逃げるんだ。 皆には『あいつにはきっちりおとしまえをつけて、村から追い出した』と言っておく。 親父も説得してお前に追手がかからないようにしてやる。 すまないな・・・私にできる事はこれくらいだ・・・無力な私を許しておくれ。」 「とんでもありません。ありがとうございます若旦那。本当に・・・」 「さあ、この金を持って行くんだ。なるべく遠くへ逃げるんだぞ。」 この若旦那がこんなに優しいのには裏がある。若旦那は蔵の米を横流ししていたのだ。 女遊びと博打に金をつぎ込み、借金で首が回らなくなった若旦那は家の米に手をつけた。 元から倉庫番の男にすべてを押し付け村から逃がし、米が無くなった事をうやむやにする計画だった。 この男を倉庫番に指名したのも若旦那。家族も無く、他に頼る身寄りも無い。 犯人に仕立て上げ村から追い出すのに何の障害も無い。 さらに保険も掛けていた。まりさを唆し米を盗ませたのも若旦那の仕業。 万が一、皆が男の無実を信じ真犯人を探し始めたら、すべての罪をまりさに被せるつもりだった。 饅頭共は私の名前を出すかもしれないが、どこの世界に人間より饅頭の言う事を信じる奴がいるだろうか。 もしいたとしても問題ない。簡単に言いくるめられる。若旦那は自分の計画に絶対の自信を持っていた。 結局保険を使う必要もなく、すべては計画通りにいった。 若旦那はこみ上げる笑いを必死で堪えながら男を見送った。 (狂気) 男は家に戻った。そのあまりに早い帰宅にれいむは驚き、困った様な表情を見せる。 「ゆ!おにいさんどうしたの!こんなにはやくかえってくるなんて!」 「ああ。ちょっとな。それよりれいむ。これから引っ越しの準備をするぞ。 この村を出て行かなくてはいけなくなったんだ。」 「ゆ・・・」 「おーい!れいむ!むかえにきたぜ!よかったな!これでこどもとくらせるぜ!」 「迎えにきた?どういう事だ?まりさ。」 「ゆ!おにいさん!どうしてこんなじかんにいえにいるの!」 「どうしてって・・・仕事でちょっと問題があってな・・・ それより迎えにきた、子供と暮らせるってのはなんだ?」 「ゆ・・・それは・・・」 「ゆ!じつはこのまえれいむとあそんだときにあかちゃんができたんだよ! それであかちゃんがぶじうまれたから、いっしょにもりでくらすためにむかえにきたんだよ!ほんとだよ!」 「ふーん。そうだったのか。そりゃ丁度よかったかもしれんな。」 「ゆ?」 「俺は今夜この村を出るんだ。仕事場で問題が起きてな。そのせい出て行かなくてはならなくなった。 れいむも連れていこうと思っていたが、やはり住み慣れた土地で暮らした方がいいだろうな。 れいむの事頼んだぞ。幸せにしてやってくれ。」 「ゆ!まかせてよ!それよりおにいさんのほうこそたいへんだね! どろぼうがはいったせいでむらをでないといけないなんて。」 「ちょっとまて・・・」 「ゆ?」 「なぜ蔵に泥棒が入った事を知っている?俺は『仕事場で問題が起きた』としか言ってないぞ。」 「!!!!!」 「まさか・・・お前達が・・・」 「ゆ!しらないよ!まりさたちはおこめなんてぬすんでないよ!」 「なぜ盗まれた物が米だと知っている!!!!!」 「!!!!!」 「貴様ら・・・」 まりさ達は一斉に逃げだす。しかし所詮はゆっくり。すぐに男に捕まってしまう。 捕まったまりさは観念したのか、それとも自分だけ助かろうとしたのか、すべてを話し始めた。 親分の命令で蔵の米を盗んだ事。 れいむに演技をさせ、男と一緒に暮らすように仕向け、鍵を盗ませた事。 男はすべてを聞くと呆然として固まってしまった。その隙にまりさは逃げ出す。 れいむも一旦は逃げようとしたが、男が心配になったのかその場に留まった。やがて・・・ 「あはっ!あははっ!あははははははははははははははははははは!」 「ゆ!おにいさんどうしたの!だいじょうぶ?」 「あはははははははははははははははははははは ははははははははははははははははははははは ははははははははははははははははははははは」 「ゆーーーーー!しっかりして!」 「ははっ!お前、俺を騙してたんだな!ずっと!そして何も知らない俺の事を笑っていたわけだ!」 「ち、ちがうよ!わらってないよ!しかたなかった・・・しかたなかったんだよ・・・」 「あはは!まさか、まさか身内に騙されるとは!家族同然に思っていたお前に!」 「お嬢さんに救われ、彼女の言う通りにした結果がこれだよ!あははははははは!」 「両親が死んで、借金だけが残った。その借金だって騙されて負わされたものだ。しかも仲間に! あいつは皆の手前、本当の事を言う訳にもいかず、自分が音頭を取って皆で親父を助けたかの様に言ってたが。 そんなのウソっぱちだ!あの野郎、俺が何も知らないと思ってやがる。 高利貸しとグルになって騙したのはあの野郎なのに!」 「おにいさん・・・」 「まあ聞けよ。両親が死んで、俺は生きる気を無くしてた。やり場のない怒りをお前らゆっくりにぶつけてた。 ゆっくりの悲鳴を聞いている間だけすべてを忘れる事ができた。ゆっくりを殺している間だけ・・・ だがな・・・満たされないんだよ、そんな事しても。常に渇いていた。常に餓えていた。 まるで底無しの胃袋を持ち、無限の食欲を持つ怪物の様に。永遠に満たされない。永久に続く地獄。」 「いつしか皆も俺のことを、狂人でも見るかの様な目で見るようになった。 そんな化け物に対して唯一、人間として接してくれたのが彼女だった。 彼女だけが俺を救ってくれた。彼女だけが俺の渇きを満たしてくれた。 彼女の傍にいたい。人間らしく生きたい。そう言った俺に向かって彼女はこう言った。」 「『恨みは何もうみださない。過去を引きずり、いつまでも恨みを持つのではなく、もっと未来を見るの。』 『情けは人のためならず。皆を助けられる人になるの。そしたら皆もあなたを助けてくれるはず。』 彼女に言われ俺は心を入れ替えた。誰かを恨んだり、人生を悲観したりせず、真面目に働いた。 お前を助けたのも彼女の言葉があったからだ。ははっ!しかし、まさか演技だったとはなぁ!」 「はははっ!駄目だ!もう駄目だ!もう何も信じられない!何も信じない! だってそうだろ?彼女の言葉を信じた結果がこの仕打ちだ! 家族と思っていたゆっくりに裏切られ、泥棒のゆっくりにハメられて罪を被り、もうこの村にはいられない。」 「あははは!もう人間には戻れない!人間らしくは暮らせない! じゃあ何になる?鬼か?妖怪か?もののけか?なんでもかまわん! どうせ俺は地獄行きだ。だがな、ただじゃ死なん。お前ら全員道連れだ!」 「お前らを殺す。全員殺す。生まれ変わってもまた殺す。転生してもまた殺す。 二度とゆっくりなどさせるものか!もしこの体が滅んでも、必ず蘇って殺しに戻って来る。 永久に殺し続けてやる!永遠に死に続けろ!」 「まず最初はお前からだ!だがその前に仲間の居場所を吐いてもらう。 ああ、別に素直に話してくれなくてもいいぞ。お前の事だ。どうせ嘘を吐くんだろ? かまわないよ?体に直接聞く。正直に話させる方法はいくらでも知ってる。」 (死) 「おやぶん!どうするんだぜ?あのにんげんはふくしゅうするために、ここにやってくるかもしれないぜ!」 「ゆ・・・にんげんあいてじゃかちめはねぇ。ここは『さんじゅうろっけいにげるにしかず』だ!にげるぜ!」 「にげるためにはじかんをかせぐひつようがある。ここいらのへいたいどもをのこらずあつめろ! やつらをぶつけてまりさたちがにげるじかんをかせぐ。」 「ゆゆこもよんでこい!せっかくえさをやってかいならしたのに、もったいないきもするが・・・ せにはらはかえられん。あいつのきょたいならじかんをたくさんかせげるはずだ。」 「わかったぜ!おやぶん!」 「あはははははは!みーーーーーつけたっ!」 「ゆっ!」 「ははっ!探したよぉ。随分探したよぉ。れいむがこの場所を教えてくれなくってさあ!」 お前達に何か恩義でもあるのかねぇ。」 「ゆ・・・れいむのこどもをあずかってる。きっとこどもをたすけるためだぜ。」 「へえ、子供がいるんだぁ。じゃあお母さんに逢わせてあげないとねぇ。 ほらっ!お母さんだよーーーー♪」 「ゆーーーーーーーーー!!!!!!」 男はれいむから剥ぎ取った皮を被り「あははははははは」と壊れた玩具の様に笑う。 「お、おにいさん・・・おちついて、おちついてはなしをきいてほしいんだぜ。」 「ん~~~~?なあに?」 「まりさたちも、まりさたちもだまされていたんだぜ。こんなことになるなんてしらなかった。」 「あははっ!それで?」 「にんげんがこのけいかくをもちかけてきたんだぜ。きしょうしゅのゆっくりをさがすのを、てつだうかわりに こめをすこしわけてやるって。じぶんがもっていくわけにはいかないから、おまえたちでぬすみだせって。 ばれないようにこちらでうまくやってやるから、なにもしんぱいいらないって。」 「そうか・・・お前達も騙されて・・・本当なら蔵の米が減ってるのに誰も気が付かず、 お前達は米を手に入れ、この計画の立案者とやらは希少種のゆっくりを手に入れ、 俺は泥棒扱いされる事もなかったはず・・・こう言いたいんだな?」 「ゆ!そうだぜ!わかってくれた?」 「あはははは!!!んなわけねーだろーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!! お前らのことだ、どうせ嘘吐いてるんだろ。」 「ほ、ほんとなんだぜ!しんじてほしいんだぜ!」 「つーか、嘘とか本当とか、そんな事もうかんけーねーし!お前ら全員殺すって決めたし! 判決!死刑!即時執行だよっ♪」 「まってほしいんだぜ!さいごに・・・さいごにみせたいものがあるんだぜ!」 「見せたいもの?なんだ?」 「みせたいものは・・・」 「見せたいものは?」 「おやぶーん!みんなつれてきたぜ!」 「みせたいものってのはこれさあ!おまえら!よくやったぜ!」 男の周りをゆっくり達が囲む。100匹以上もいるだろうか。遠くからも声がする。まだ集まって来る様だ。 中には身体つきの捕食種や、男の背丈ほどの大きさのゆっくりもいる。 「さあみんな!だいじょうぶ!これだけいたらにんげんにもかてるぜ! にんげんをたおしたやつは『じきさん』のこぶんにしてやるぜ! しっかりはたらけ!てがらをたてろ!にんげんをたおしたやつは、だれよりもゆっくりさせてやるぜ!」 「「「「「「「「「「ゆーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」」」」」」」」 ゆっくり達が一斉に男に襲いかかる。それを見た男は手に持っていた鉈を鞘から抜く。 急にゆっくり達の足が止まる。手に持った鉈から発する狂気を感じ取ったのか。 この鉈は以前、男がゆっくりを殺す為に使っていたものだ。殺した数は千を下らない。 この鉈にこびり付いた餡子は、ゆっくりだけが感じ取ることのできる死臭を放つ。 「ゆっくりの死」そのものを体現したかの様なその鉈に、ゆっくり達は恐怖し動くことができない。 「お前達にも解るか。数え切れぬほどのゆっくりの餡子を吸ってきたこの鉈だ。 何か怨念の様なものが映っているのかもな。まさかまた使う事になるとは思ってもいなかったが・・・」 「さあ、死の螺旋の始まりだ。これからお前達を殺す。殺し続ける。 駆除しても駆除しても増え続けるお前達の事だ。絶滅する事は無い。どこかでまた生まれ変わるだろう。 だが、生まれ変わってもまた殺す。運良く逃げ延びても、探し出して必ず殺す。」 一閃。男が振った鉈が一番近くにいたゆっくりの頭を切り落とす。 「ゆーーーーーーーーー!!!!!」 「ごめんなさい!ごめんなさい!」 「たすけてよ!まだしにたくないよ!」 「どうじでこんなごどずるのおおおお!ゆっくりしたいだけなのにいいいいいい!」 「ゆっくりしたい?すればいいさ。俺に殺された後に。いくらでも。 生まれ変わってゆっくりしていろ。すぐに殺しに行く。俺に殺されるのをゆっくり待ってろ!」 ゆっくりの群れは大混乱に陥った。泣き声。叫び声。ゆっくりの悲鳴が辺りを包む。 家族を見捨てて逃げ出すもの、親を殺され仇を討つため男に向っていくもの。 恐怖のあまり気が狂って仲間を攻撃し始めるものまでいた。まさに阿鼻叫喚の地獄絵図。 「ゆーーー!!!よくもおかあさんを!!!」 「いやーーー!まりさーーー!たすけてーーーー!!!」 「ゆふふ、ゆふふ・・・」 「このこだけは!このこだけは!」 「ああ・・・まだしにたくないよ・・・」 「ゆーー!まりさはころさないでね!ころすならほかのだれかにしてね!」 「こぼねーーーー!」 「ゆっくりしていってね!!!ゆっくりしていってね!!!ゆっくりゆっくりゆっくゆっくゆっゆっゆ・・・」 「おかあさーん!どこにいるのおおおお!!」 「ゆふふ・・・みんな・・・みんなしんじゃうんだ・・・」 「ゆうう・・・れいむ・・・いまいくよ・・・まっててね・・・いっしょにゆっくりしようね・・・」 「もっとゆっくりしたかったーーーーーーーー!!!!」 一方、親分まりさは森の小道を村へ向かって逃げていた。自分の手下だけを連れて。 「ゆっゆっゆっ!にげるぜ!にげるぜ!だいじょうぶ!にげきれるぜ!」 「ゆっゆっゆっ!しかしおやぶん、うまくにげだせましたね。まったくおやぶんのうそはおそろしい。」 「このかずならかてるだの、『じきさん』にしてやるだの。あいつらすっかりそのきになってたぜ!」 「ゆっふっふ!おかげでじかんかせぎはせいこうだ!」 「で、このあとどうするんだぜ?」 「まず、むらのちかくまでにげる。そしたらおまえたちは『おおだんな』のところへいけ。たすけをもとめるんだ。 まりさはからだがおおきくてめだつから、むらのちかくにかくれてる。」 「『おおだんな』とは、『わかだんなのあくじをしらべてほうこくする』というけいやくをしてるんだ。 そのみかえりとして、なんでもべんぎをはかってくれることになってる。」 「『わかだんな』のあくじをしらべることはできなかったが・・・だいじょうぶ、しんぱいいらない。 まりさたちがやったぬすみを、『わかだんな』がやったことにすればいいぜ。」 「これでけいやくはたっせいしたことになる。『おおだんな』はまりさのたのみをきいてくれるはずだぜ。 まりさたちをとおくににがすことくらいはしてくれるはずだ。」 「おまえたちわかってるな!うまくだますんだぜ!ぬかるんじゃないぜ!」 「おいっ!へんじくらいしたらどうなん・・・だ・・・」 「返事?返事が欲しいのか?じゃあ急がないとな。今から追いかければ、まだ間に合うんじゃないか?」 「ゆ・・・」 「心配すんな。すぐに追いつくさ。あの世で手下共に宜しく言っといてくれ。」 「じゃあな。また会う日まで。また殺す日まで。さようなら。」 「ゆーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」 end 作者名 ツェ 今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」 「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」 「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/1303.html
※賢者タイム終了後は妙に頭が冴える。がネタは冴えない。 【蟻地獄】 「おじさん!ここからだしてね!」 「いまならゆるしてあげるよ!」 眼前に広がる新しい《ハコ》 高さは腰より上、幅は成体5匹分はあろう大きい《ハコ》 見た目的に、箱というよりは筒である。 透明の筒の下方に、いくつものカラクリ。そして上段には、砂。 動作確認も終えた。何一つ誤作動もない。完璧だ。完璧すぎる。 この世にまたひとつ。 ゆっくりをゆっくりさせない《ハコ》誕生した。 「ゆっくりできないおじさんはゆっくりしね!」 「ゆっくりしね!ゆっくりしね!」 始動式に参加するゆっくりはすでに決まっている。 ここら辺では珍しい、まりさ一家だ。 親まりさ2匹、子まりさ3匹。子もそこそこ大きい。 このゆっくり、今朝村人から依頼があり回収したもので、 話によると何度も畑を襲ってはうまく逃げてきたらしい。 ちなみに、ゆっくりの駆除(という名の虐待)と、 野菜の売買を生業として生きている。 まぁいいとして。 「もうまりさおこったよ!おじさんはゆるさないからね!」 「おじさんなんかやっつけるよ!」 捕獲用の《ハコ》から、今回の《ハコ》へまりさズを投入。 全員入ったことを確認し、蓋を閉じる。 罵声がややくぐもったものになるが、聞き取れるならまだいい。 通風孔は外にしかつながっていない。中にあってはいけないのだ。 さて、起動である。《ハコ》もこの瞬間を待っていたことだろう。 前もって抜いておいた歯車をひとつ、はめ込む。 水車から引かれた歯車たちがゴゥゴゥと回転する。 下段のカラクリが動き出す。上段の砂が、沈む。 「ゆっ!なんかうごいてるよ!」 「なんだかずるずるうごくよ!」 今回のハコ、《蟻地獄》が起動した。 起動と同時に砂が落下、砂時計の要領でゆっくり達を飲み込む。 飲まれた砂の重さに耐え切れないゆっくりも出てくるだろうが、そう甘くない。 飲み込まれた先には何重にも設置された回転式の鋸歯。 意思の切れたものから、砂と共に粉微塵に引き裂かれる。 降りた砂はカラクリによって再び持ち上げられ、強い風と共に上へ戻る。 もちろんゆっくりが飲まれたのなら、黒い砂が降ることになる。 蟻地獄といえど人工、飲まれぬよう歩き続ければいい。 ひたすらに歩き続ける苦労と、降り注ぐ砂の苦痛の二重苦。 心身ともに、彼らはゆっくりすることを許されない。 ただその身心果てるまで、頑張ってもらおう。 「あんまりゆっくりできないよ!ここからだしてね!」 親まりさ2匹は壁際に寄り、訴えてくる。もちろん華麗にスルー。 「すべりだいみたいでたのしいよ!ゆっくりしていってね!」 親の苦労はいざ知らず、子まりさは遊び始めた。 ずーりずーりして跡をつける子、親にくっついてる子、そしてかけっこする子。 こんなに大きな砂場ははじめてだろう。いい顔をしてはしゃぎだす。 子まりさの1匹が勢いよく中央めがけ滑り出す。 砂のせいか、途中ひっかかりころころと転がって、中央のくぼみへたどり着いた。 「ゆぅ~。びっくりしたよ!……ゆっ!?」 異変。砂が自分を飲み込もうとしている。 「おかあさん!でられないよ!ゆっくりだしてね!」 あがくほどにもがくほどに、砂は愚か者を蝕む。 「ゆー!いまたすけにいくよ!ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていってね!」 親まりさが動き出すより早く、残りの子まりさ1匹が動き出した。 中央めがけ一目散にかけていく。滑り出せばそこまでは早い。 砂を巻き上げて沈む子まりさを目指す。 が、その巻き上げた砂がさらに底へと誘う。 「ゆ”う”う”う”う”ぅぅぅぅ!!」 砂といえ集まれば重い。飲まれると同時に押しつぶされる感覚。 「ゆっ!ゆっくりひっぱるよ!」 たどりついた子まりさが、沈みかけた帽子をくわえて引っ張る。 「ゆーしょ!ゆーしょ!」 「ゆ”う”う”ぅぅ…」 スポーン 子まりさは引っ張り上げた。 帽子を。 帽子の下に、さっきまでの子ゆっくりの姿はない。 あるのは砂。獲物を飲み込み、次の獲物を待つ、砂。 「ま”り”ざあ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」 助けるはずだったのに、助けられなかった。大切な兄弟なのに。 子まりさは泣き出した。くわえた帽子は離してしまった。 「あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!」 なすすべもなく、号泣。 泣き声に気づいた親2匹は、中央の子まりさに気づいた。 帽子二つに子供がひとり、ただごとではない。 「どうしたの!ゆっくりかえってきてね!」 「そっちはあぶないよ!こっちでゆっくりしていってね!」 だが機械は、砂は待ってくれない。動かないのなら食うのみ。 泣いていたまりさも、気が付けば砂の牙に齧られている。 「ゆっ!ゆっ、ゆっ、…ゆ”う”う”ぅぅ!!」 身をよじれば砂が崩れ、声を上げれば砂が崩れ、より深く牙を立てる。 気が付けば、自分も動けずにいた。 親まりさは子を助けたいのだが、危険のあまり動けない。 この状況下、声をかけることしかしてくれない。いや、できない。 もう1匹の子供も、親にくっついて怯えている。 やがて、子の姿と声は消えた。 帽子も飲まれてしまった。 「ゆっ、まりさたちきえちゃったよ!?どうしたの!?」 「…おじさん!ゆっくりしてないでこどもをたすけてね!」 「ゆっくりしないでね!」 母ゆっくりが必死の顔で訴えてくる。 他力本願。仕方がないことだがなんと白状なものか。 さて、ショーはこれからだ。まだまだゆっくりしてられない。 《ハコ》の中に、砂嵐が吹き荒れ始めた。 始めに落ちた砂が運ばれてきたのだ。動作状態良好。 「ゆ”う”う”ぅぅ、すながめにはいったよ!」 「こんなんじゃゆっくりできないよ!」 それでも絶えず砂嵐は吹きすさぶ。機械はこう、一定に動くから素晴らしい。 まりさ達は風向かいに帽子を傾けた。なるほど。まりさ種なだけはあるか。 ふと筒下段を確認する。砂はすべて上に舞い上げられているようだ。 そして…そろそろだな。どっかりと安楽椅子に腰掛けて眺める。 「…ぅ”ぅ”ぅ”ぅ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!」 「ゆ”!?」 地の底からの咆哮、愚か者の断末魔。 始めに飲まれたまりさは飲まれても圧死しなかったらしい。 だからこそ、この鋸歯は生きる。 待ってましたといわんばかりに獲物に歯を立てる鋸歯達。 わずかな砂の隙間から、苦痛が外へ漏れる。 「…ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!」 鋭く研がれた歯が、砂に負けない歯が、体を、思い出を、心を、刻んでいく。 難点があるとすれば、その瞬間が歯と砂に囲まれて観察できないことか。 改良の余地あり、だな。 「まりざああぁぁ!!まりざああああぁぁぁぁ!!」 亡き方向へ泣き叫ぶまりさ。こいつら固体判別どうしてるんだ。 泣き声が命を救うなら、きっと虐待お兄さんも増えているだろうな。 そんなどうでもいいことを考えていると、断末魔がやんだ。 「ま”り”ざがあ”あ”ぁぁ!!ま”り”ざがあ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」 「ま”り”ざあ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」 流れる涙は砂に滲んでいく。残された3匹は、ただただ泣くしかなかった。 「おがあざああぁぁん!!まりざがああぁぁ!まりざがああぁぁ!」 「…しかたがないよ!まりさのぶんもゆっくりしようね!」 切り替えの早い親だ。まりさ種ってのはこんなもんなんだろうか。 家族だからどんなもんかと思ったが。 飲まれ行く砂に逆らって、端へ端へ動き続けるまりさ達。 ふと、鋸歯の音が変わる。どうやら2匹目が歯にかかったらしい。 声が上がらないあたり、砂に負けたか。あの悲鳴は聞きごたえがあったのに。 ゆっくりが飲まれたということは、あれが始まるはずだ。 人間への抵抗を忘れたまりさ達を眺めていると、それは始まった。 まりさ達の頭上から降り注ぐ砂の色が、変わった。 輝きすら見せる黄土色から、苦く甘い黒へ。 砂の粒子よりははやり少し重いらしく、それほど《ハコ》内を舞わずに落ちる。 「ゆっ!なんかとんできたよ!」 「たぶんすなだよ!きにしないでね!」 「でもさっきよりなんかおもたいよ!」 「ゆぅ?…」 親まりさは黒い砂嵐の中、そっと帽子のつばを上げた。 これ以上に何があるというのだ。そんな目で。 これ以上ないものがあった。 降り注ぐのは徹底的に粉砕された、餡子と皮と帽子の端切れ。 帰らぬ者が帰らずに帰ってくる。感動の再開じゃないか。 「ゆ”う”う”う”う”ぅぅぅぅ!!!!!」 餡子と皮はぽろぽろと、黒白の布はひらひらと、《ハコ》の中を飛ぶ。 顔を上げたまりさは、その衝撃に気絶してしまった。 自分の息子(娘かもしれんが)がこんな姿で帰ってきたのだ。 いや、帰ってこなかったのだ。 気を失ったまりさは、ずるずると同じ末路をたどり始める。 「まりさ!しっかりしてね!ねちゃだめだよ!ゆっくりできなくなるよ!」 「おかあさん!しっかりおきてね!」 気つけも声をかけるぐらいしかできない。 2匹は少し先回りし、動かないまりさを端へ端へと押し上げる。 これ以上欠員を出してはいけない。 その顔に映る生。この必死が見たくて虐待をしているようなものだ。 しかし異変。 突然、2匹が騒ぎ出す。 「い”や”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!い”や”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!」 「ごな”い”でえ”え”え”え”ぇぇぇぇ!!!!」 はて、これは予想外の展開。どうしたものだろうか。 内心わくわくしながら、《ハコ》をじっくりと観察する。 飲まれる砂、降り注ぐ砂、餡子、皮、帽子… まりさ達は必死に、何かを振り払おうとしている。 …そうか。帽子だ。 いわく、死んだゆっくりの飾りをつけたゆっくりは同属に攻撃されるらしい。 どうやらそれは帽子の形をしていなくとも有効らしい。 まりさ達はそれを知っていて、本能的にそれを避けようとしている。 この強風砂嵐吹き荒れる密閉空間で。 「どれ”ない”い”い”い”い”ぃぃぃぃ!!!」 「ごわ”い”よ”お”お”お”お”ぉぉぉぉ!!!!」 パニックのあまり走り出す。気絶したまりさは目を覚まさない。 これは、もう長く続かないだろう。 なら最後を、悲鳴の消えるまで眺めるのがせめてもの、ってやつだ。 走り回っている間に、気絶まりさは砂に飲まれた。 砂に目覚めることもなく、この騒がしい中で静かに消えていった。 「う”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!」 「い”い”い”い”ぃぃぃぃや”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」 もう悲鳴しか聞こえない。 渦中のまりさたちは家族が飲まれたことすら気づかず、実らない保身に精一杯だ。 体を思い切りゆすり、思い切り走り回り、布の端を払おうとしている。 やがて、走り回っていた親まりさが体勢を崩した。 転げ落ちるように、苦痛からの出口へ。 「ゆ”っ!ゆ”っ、ゆ”っ、ゆ”う”う”う”う”ぅぅぅぅ!!!」 身動きが取れなくなる。自然、降り注ぐ死の破片も振りほどけない。 パニックは最高潮へ。 親の悲鳴に、子供が我に帰る。子供の方が賢いじゃないか。 子供のとった行動は、あろうことか沈み行く親めがけ一直線である。 「おかあさん!まりさがゆっくりたすけるよ!」 「ゆ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!」 子供の声すら聞こえていない。ダメだ。これではダメだ。 いや、こちらにとっては理想的ではある。 子の助け虚しく、二人目の親もじわじわと、《ハコ》の体内へ。 「………お”か”あ”ざんの”ぶんも”ゆ”っ”ぐり”ずる”よ”!」 仕方がないと切り替えたのだろう。子まりさは助かるべく上を目指す。 だがそうまくもいかない。うまくいくようにできていない。 暴れまわった親まりさ、砂をあおる強風、そして今自分が一番、底に近い。 必死にあがく子まりさ。応じるように崩れ落ちる砂の坂。 ざらざらと崩れ落ち、やがて中央に到達した。 「ゆ”ぅー!ゆ”う”う”ぅぅ!!」 最後の最後まで、見えている希望を必死につかもうとする子まりさ。 その目は、涙で輝いていた。 その輝きも、砂に消えた。 一時の静寂を取り戻す《ハコ》 「そうか。飾りに関しては考えてなかったな…」 静かな部屋の中、ひとり反省会。 「休みない状況で心身共に疲弊させるつもりだったんだが…」 稼動しつつも中身のない《ハコ》は、寂しいものである。 「予想よりかなり早く、終わってしまった」 ただ砂嵐が吹く音と、歯車の回る音。 「しかしまぁ、装置自体の完成度は充分」 終わりを告げるそのしるしが、下へ下へと流れてくる。 「改良…はしたいなぁ。飾り対策か…」 ゆっくりたちは、ちょうど見える位置で落ちてきていた。 「まぁ、いいや」 命の演奏会が、始まる。 「……ん”ん”ん”ん”う”う”う”う”ぅぅぅぅぅぅ!!!!」 気絶まりさが、絶望の中で目を覚ます。 口は、開かないらしい。子供は火事場の馬鹿力を見せたというのに。 興ざめだ。ただ刻まれてしまえ。 「ん”ぅ!ん”ぬ”ぅ!う”う”う”う”ぅぅぅぅ!!!!!」 砂同様にまで刻むために、かなり充実した解体工程になっている。 死してなお体を蝕むそれは、砂にも餡子にも負けない絶対を突きつける。 しばらくして、気絶まりさは、形を失った。 「…う”う”う”う”わ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁ!!!…」 そうか、解体中にもう1匹が流れることがあるのか。 共鳴も聞いてみたかったが、あいにく少しだけ遅かった。 「…だあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!…」 これだ、これこそ待ち望んだ悲鳴、生きている証。 圧し殺す砂の中で、最後の命が響かせる音。 素晴らしい。実に素晴らしい。 「……い”だあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!…」 なんと、子まりさも解体に入ったようだ。願ったり叶ったりだ。 この喜びは何事にも変えられない。蓄音機を準備しておけばよかった。 「う”があ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 「い”い”い”い”い”い”い”い”ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」 回転する鋸歯が、上下に動く鋸歯が、鬼目やすりが、刃が、棘が… もてる限りを尽くした、最高のおもてなしだ。 「ゆ”う”う”う”う”う”う”う”ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」 「ゆ”う”う”う”う”う”う”う”ぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!」 演奏会は、終わった。 再び静かになる部屋。 歯車は無慈悲に回る。 黒い風が、《ハコ》の中に吹いた。 【あとがき】 規制に巻き込まれたタカアキです。 しかしいい竜頭蛇尾。 でもこれより長いと書くのも読むのも辛いだろうっていう。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/3127.html
前 「ゆ~♪ ゆ~♪ かわいい~あかちゃん~♪」 「おかぁしゃんのおうちゃ、しゅごくゆっくちできりゅよ!」 「もっちょ! もっちょうちゃって!」 「今日はこれでおしまいだよ。ゆっくり寝てね!」 「わかっちゃよ!」 「おやちゅみなちゃい!」 産まれて来た赤ちゃん達。 れいむに似たおちびちゃん。 まりさに似たおちびちゃん。 思ってたとおり、すごくゆっくりした良い子達ばかりだよ。 眠ってしまった赤ちゃん達の顔を眺めながら、れいむは幸せに満ちていた。 まりさに捨てられた時は死ぬ事も考えたが、そのたびにお腹の中の赤ちゃんが動いた。 まだ生きたい。 外に出てゆっくりしたい。 お母さんとゆっくりしたい。 まるでそう訴えるように、何度も激しく胎動した。 れいむは結局死ぬことを諦め、赤ちゃんを産む決意を固めた。 この子達を産んで良かった。 死ななくて本当に良かった。 今なら心から、そう思う事が出来る。 赤ちゃんが産まれて、必要な餌の量は格段に増えた。 いつも朝早くに起きて、餌を取りに行かなければならない。 れいむは今、三箇所のゴミ集積所を回っていた。 日の空く事を考えると、一箇所で集まる量だけでは、とても家族全員の食料を賄いきれないのだ。 だが当然、後の方になるほど、他の生物とかち合う危険性が増える。 それでもれいむは、赤ちゃん達の存在を心の支えにして、危険の中を掻い潜っていた。 れいむは生ゴミの無い日に狩りもしていた。 土手を走り回って昆虫を捕まえ、川辺の小石の下からは川虫を捕まえる。 川岸に大きな魚が打ち上げられていた事もあった。 二日分に値する食料。 あれから毎日のように川岸をチェックしている。 だが残念な事に、今のところその姿はない。 れいむは公園にも通っていた。 最初は、まりさがいるかもと思い避けていたのだが、ご飯の事を考えると背に腹は変えられない。 公園の大きな木の下には、食べられる木の実が落ちているのだ。 いつも入り口から覗き込み、まりさがいない事を確認して中に入った。 ハトのおじさんには、よくお世話になった。 その場で食べずに持ち帰っているのだが、おじさんは気にしてはいないようだった。 ただ、最近もう一人の子が一緒じゃないねと言われた時、れいむは何故だかすごく悲しくなった。 今日は赤ちゃん達と、お家の前でゆっくりしよう。 そう考えたれいむは、一回り大きくなった赤ちゃん達を、巣の外へと連れ出した。 初めて見る外の風景に、赤ちゃん達は大はしゃぎ。 目の前に広がる世界を、思う存分跳ね回り堪能する。 ここなら、どれだけ跳ねても頭をぶつける心配はない。 ここなら、狭く低い天井等ありはしないのだから。 「おかぁしゃん! おかぁしゃん! ばったしゃん、ちゅかまえちゃよ!」 「おねぇしゃん、しゅご~い! しゅご~い!」 「まりさは狩りが上手だね。お母さんにも教えてね」 「ばったしゃんは、はにぇるから、とまっちぇるとき、はにぇればいいんりゃよ!」 「れいみゅもやりゅ! れいみゅもやりゅ!」 姉まりさを追いかけて、妹れいむも一緒にバッタを探し始める。 しばらくすると、ちゅかまえちゃたという元気な声が聞こえてきた。 今度は妹れいむが捕まえたようだ。 すぐ後から聞こえてくる、む~ちゃむ~ちゃちあわちぇ~という幸せの声。 そんな妹れいむの様子を見て、姉まりさは負けじとバッタを追い回す。 二人はまるで競うように、バッタを捕まえては口に運んでいった。 もうご飯が取れるなんて、ほかの赤ちゃんにはマネできないね。 きっとれいむの赤ちゃんが、ゆっくり一ゆっくりな赤ちゃんに違いないよ。 せいかくには、ほかの赤ちゃんの三倍はすごいよ。 れいむの餡子の中に広がる親馬鹿全開思考。 そんな幸せなゆっくり的物思いは、突然現れた人間の声によって破られた。 「見て見て! ゆっくりの赤ちゃんだ!」 「なにこれ、マジかわいいんですけど!」 そう口にした人間の行動は素早かった。三倍どころの話じゃなかった。 瞬きする間に、赤ちゃん達は人間の手の上に乗っかっている。 ああ、れいむは何て餡子脳なんだろう。 人間さんがこんなに近くまで来ているのに気づかなかった。 ゆっくりのゆっくりした性格を、今ほど恨んだ事はない。 ゆっくりした結果がこれだよ! 人間さんはやっぱり油断ならないよ! ちがうちがう、そうじゃないよ。今はそんな事考えてる場合じゃないよ。 赤ちゃん達を取り戻さないとね。今すぐにね。 れいむは人間から赤ちゃんを取り戻す決意を固めた。 「お、おお、おねーさん達! ゆっくり赤ちゃんをはなしてね! ゆっくりいそいではなしてね!」 「これって、どうすればいいの? ゆっくりすればいいの?」 「わかんないよね。不思議だよね」 「い、いいい、いいから、れいむに赤ちゃんかえしてね! 赤ちゃんいやがってるよ!」 「えっ? そうでもないよ?」 「むしろ、よろこんでるよ?」 「わぁ~い、おちょらをちょんでりゅみちゃ~い♪」 「ゆ~ん、しゅごきゅちゃかいよ~♪」 「どぼぢでよろごんでるのおおぉおおおお!?」 白目を剥き叫びながらも、れいむはゆっくりと理解していた。 ああ、赤ちゃん達は嬉しいのだ。 自分達の届かない視点から見える世界を、ただ純粋に喜んでるだけなのだ。 きっと自分だって、大はしゃぎしてしまうに違いない。 だってあんなに高い場所にいるのだから。 それがゆっくりの生き様だよね。 そう考えると、何だか赤ちゃん達が羨ましくもある。 思っていたほど悪い人間ではないのかも知れない。 「ゆぅ……おねーさん達は、ゆっくりできる人なの?」 「よくわからないけど、ゆっくりできるよ」 「うん、ゆっくりできるよね。よくわからないけど」 よくわからないのはこっちだよとも思ったが、うかつに喋って人間を怒らせるわけにはいかない。 今のところ、赤ちゃんに害を与える様子はない。 ひょっとすると、本当にゆっくりできる人間なのかも知れない。 せっかくだから、少し赤ちゃんと遊んでもらおうか? 気がすめば帰るだろう。れいむはそう考えた。 「ゆっ! れいむ、ゆっくり理解したよ。いじめないなら、赤ちゃんとゆっくりしてもいいよ!」 「やった~! 私、この赤いリボンの子もらうね」 「じゃあ黒い帽子のまりさは、私が持って帰るね」 「どぼぢでもっでがえるのおおおぉおおおおおおおお!?」 本日二度目の白目を剥き、れいむはただただ絶叫した。 何を言ってるの? 馬鹿なの? この人間達は馬鹿なの? 会話になってないよ。ぜんぜん会話になってないよ。 もうお家に帰って寝ちゃいたいよ。 でも、赤ちゃんは置いてはいけないよ。 れいむ頑張るよ。お母さんだから頑張るよ。 れいむは最後の気力を振り絞り、人間達に訴えかける。 「お、おおお、おねーさん達! 赤ちゃんはれいむの赤ちゃんなんだよ? ゆっくりするなら、れいむの前でゆっくりしてね!」 「えー、でもうちって大きいゆっくりは飼えないし」 「うちはお父さんがれいむアレルギーでちょっと……」 「どぼぢでれ゛いぶまでいぐごどにな゛っでるのおおおおぉおおお!?」 三度目の絶叫で、れいむは自分の中にある餡子を見た気がした。 もうこの人間達と話すのは嫌だよ。 ハトのおじさんはこんなじゃなかったよ。 まりさのとこのお兄さんはこんなじゃなかったよ。 だいたい人間と一緒じゃゆっくり出来ないよ。 しかし、れいむは知っていた。 この世界で本当にゆっくり出来るゆっくり。 それは人間に飼われているゆっくりなのだ。 人間に満ちたこの世界で、他にゆっくりがゆっくり出来る場所などない。 自由はゆっくりをゆっくりさせない。 れいむは赤ちゃん達にゆっくりして欲しかった。 れいむも本当はわかってるんだよ。 人間に可愛がられてるゆっくりは、すごくゆっくり出来るよ。 あんなだったけど、まりさはすごくゆっくり出来てたよ。 公園で見たゆっくりも、みんなすごくゆっくり出来てたよ。 おねーさん達と一緒に行けば、赤ちゃん達もすごくゆっくり出来るのかな? 「あ、あのね? おねーさん達……本当に赤ちゃんを可愛がってくれるの……?」 「うん! ちょうど、ゆっくり飼いたいって話してたから!」 「うちも、まりさなら大丈夫。れいむは無理だけどね」 れいむはこっそりと赤ちゃん達の様子を窺い見る。 はしゃぎ疲れてしまったのだろう。 白目を剥き続けた親の気苦労も知らず、赤ちゃん達は手の平の上でぐっすりと眠っている。 ゆ~ん、赤ちゃん達、すごくゆっくりしてるよ。 まるで、れいむの側でゆっくりしてる時みたいだね。 赤ちゃん達、そこですごくゆっくり出来るんだよね? おねーさん達と一緒なら、すごくゆっくり出来るんだよね? これまでみた人間と飼いゆっくりの姿を、れいむはもう一度強く思い返した。 人間は飼いゆっくりに優しかった。 人間はすごく美味しいご飯を作る事が出来た。 人間は暖かい家に住み、そこはまさにゆっくりプレイスだった。 飼いゆっくりはどれも美しかった。 飼いゆっくりはだれもが健康そのものだった。 飼いゆっくりはどんな時も、幸せに包まれた顔をしていた。 飼いゆっくりじゃない自分の子達が、飼いゆっくりになれるかも知れない。 母親として、これ以上してやれる事はないはずだ。 れいむは餡子を吐く思いで、その言葉を唇で紡いだ。 「おねーさん達……赤ちゃんね……連れてってもいいよ……」 「本当にいいの?」 「お母さんはダメだよ?」 「れいむは一人でもゆっくり出来るよ! だから気にしないでいいよ!」 一緒に行けるものなら、れいむも赤ちゃん達と一緒に行きたかった。 だがれいむは理解している。この女の子達が必要としているのは、れいむの赤ちゃんだけなのだ。 れいむは赤ちゃん達の幸せを、自分の我侭で壊したくなかった。 れいむに似た赤ちゃん、れいむよりずっと可愛くなれるよ。良かったね。 まりさに似た赤ちゃん、まりさみたいに綺麗になってね。でも性格は似ないでね。 れいむは心の中で、赤ちゃん達とのお別れを済ませた。 ぐっすりと眠っているうちに行ってもらいたかった。 目を覚ました赤ちゃん達とお別れするのは辛かった。 「おねーさん達、赤ちゃん達が起きないうちに、ゆっくりしないでおうち帰ってね! 赤ちゃん達とゆっくりしてね!」 「うん、ゆっくりするよー」 「ありがとねー」 「ゆっくりしてね!」 手の平に赤ちゃんを乗せたまま、女の子達が去っていく。 遠ざかる二人の楽しげなお喋りが、れいむのところまで聞こえてくる。 赤ちゃんの声は聞こえてこない。まだ眠っているのだろう。 起きたられいむがいなくて泣いちゃうかな? それともすぐに忘れちゃうのかな? 今更考えても仕方のない事だ。 未練を振り切るかのように、れいむは身体をブルブルと震わせた。 不思議と涙は出てこなかった。 れいむのゆっくりは、もうほとんど残されていない。 赤ちゃん達と一緒に、身体の中から大切な餡子が転がり落ちてしまった。 れいむはたまに、そう感じる事がある。 ぽっかりと空いた空洞を埋めるように、れいむは以前と同じ生活を続けていた。 身体が赤ちゃんのいた頃と同じ生活リズムを求めている。 今日も朝早くに目が覚めた。ご飯を取りに行かなくてはならない。 本当のところ、ご飯なんて充分に残っている。文字通り腐る程ある。 それでも三箇所の餌場を、以前と同じコースで回る。 一つ目の餌場に着いた。 今日はごちそうの日らしい。 まだ半分近く残った人間のお弁当が、無造作に捨てられている。 もう持ち帰る必要は無い。そのまま、もそもそと身体の中に収める。 二つ目の餌場に着いた。 いつもと変わり映えのない風景だ。 近づいてみると、骨だけになった魚が転がっている。 空っぽの眼窩がこちら見ている気がする。これは犬さんにでもあげよう。 三つ目の餌場に着いた。 そこには先客の姿があった。野良ゆっくりだ。 れいむはもう食べたからいらないよ。ゆっくりしていってね。 心の中でそう呟き、ゆっくりと餌場に背を向ける。 「れ、れいむ! やっぱり、れいむなんだぜ!」 聞き覚えのある声だ。誰だっただろう? れいむがゆっくりと餌場に振り返る。 先ほどの野良ゆっくりが、こちらへと跳ねてくる。 それは変わり果てたまりさの姿だった。 これは本当に、あのまりさなのだろうか? れいむは唖然としながら、目の前のゆっくりに目を走らせた。 真っ黒な帽子は皺だらけで、鍔が所々欠けている。 得体の知れないゴミの絡まった髪の毛は、脂ぎって土色に変色している。 肌はカサカサに乾燥し、今にもヒビ割れてしまいそうだ。 頬はゲッソリと痩せこけて、眼窩が暗く窪んでいる。 満足に食事や睡眠が取れてないのかも知れない。 「あまりジロジロみられると、てれるんだぜ~」 照れているつもりなのか、身体をくねくねと左右に揺らしている。 なんと醜悪なゆっくりなんだろう。 まりさは自分を捨てた最低なゆっくりだ。 だが、その美しさだけは本物だった。 赤ちゃんにまりさの面影を見た時、密かに感謝をしたくらいだ。 そのまりさが目の前のゆっくりだなんて、れいむにはすぐに信じる事が出来なかった。 「本当にまりさなの?」 「まりさにきまってるんだぜ! うたがうなんてひどいんだぜ!」 疑うなと言う方に無理がある。 似ても似つかないその姿は、そこらの野良ゆっくりの方がまだマシだ。 だが、やはりこのゆっくりは、まりさなのだろう。 このどうでもいい性格が、これはまりさだとれいむに訴えかけている。 「……仮にまりさだとして、まりさはれいむに何の用なの?」 「れいむ~、まりさをたすけてほしいんだぜ~。こまってるんだぜ~」 「どうして、れいむが助けないといけないの? 助けて欲しい時に捨てたクセに? 馬鹿なの? 死ぬの?」 「そんなつめたいこといわないでほしいんだぜ~。こうなったのには、れいむにだってせきにんはあるんだぜ~」 「聞き捨てならないよ。ゆっくり説明してね!」 頬に空気を溜め込んで、身体を大きく膨らませ威嚇してみせるが、本当は怒ってなどいない。 そんな気力はとうに失せていた。 ただ、まりさがこうなった理由にだけは興味があった。 叱られた子供のように、まりさがその身に起こった事をぽつぽつと語り始める。 れいむに会うため、毎日のように公園に通っていたまりさ。 ただし、いつもお兄さんと来ていたわけではない。 まりさはお兄さんの目を盗み、一人で公園に来る事もあった。 これは、れいむも承知していた事だ。 愛ゆえの行動だと、バカバカしいほどに信じていた。 だがまりさは、あれで外に遊びに行く味を占めていたらしい。 れいむを捨てた後も、まりさは家を抜け出していた。 初めはこっそりと、公園で他の飼いゆっくりと遊ぶ程度だった。 しかし仲の良いゆっくりが出来ると、少しでも長く一緒にゆっくりしていたくなる。 ある日まりさは、お兄さんの帰宅時間も忘れて、ゆっくりし過ぎてしまった。 慌てて家に戻ると、そこには、すでに帰宅しているお兄さんの姿がある。 必死になって謝りながらも、怒られる、もう外で遊ばせてもらえない、まりさはそう思い困り果てた。 だが、お兄さんは優しかった。愚かしいほどに優しかった。 冒険したい年頃なのだろうと思い、楽しかったかい? お友達が出来て良かったね等と優しい言葉をかけてしまった。 これが、まりさの増長を招いた。 お兄さんが家にいる間でも、堂々と外で遊べる。 好きなだけ外でゆっくり出来る。 怒られないのだから問題ない。 まりさはそう理解した。 まりさの行動は、徐々にエスカレートしていく。 お兄さんの帰宅時間との兼ね合いで、これまで近所の公園までだった行動範囲。 しかし自由を手に入れた今、まりさを縛るものはない。 他の飼いゆっくりの家に押しかけ、心ゆくまでゆっくりする。 まりさは飼い主が留守になる事の多い飼いゆっくりを狙った。 飼い主がいなければ、何をしたって咎められる事はないからだ。 そう、好きなだけ、すっきりが出来る。 まりさは普段、れいむの事を思い出したりしなかったが、すっきりの記憶だけは何度も反芻していた。 れいむとしたすっきりは最高に気持がちよかった。 薄汚い野良ゆっくりとのすっきりでも、あの恍惚感が得られるのだ。 自分と同じ飼いゆっくりとなら、もっとすごいすっきりが出来るだろう。 まりさはそう考えると、居ても立っても、すっきりしたくて堪らなかった。 だが公園ですっきりしようとすると、相手の飼い主に怒られてしまう。 なら、どうすればいい? 答えは簡単だ。飼い主のいない時にすっきりすればいい。 しばらくすると、まりさは複数の飼いゆっくりと、すっきり関係を持つようになっていた。 1日に1すっきりは当たり前。多い日は3人以上とすっきりする事もあった。 当然、帰宅時間は遅くなる。夜半過ぎまで家に帰らない事もあった。 それでもお兄さんは怒らなかった。 まりさが家に帰らない日があっても、お兄さんは怒らなかった。 だが、そんなまりさのすっきり生活も、ある日終焉を迎える事になる。 相手の飼いゆっくりの一人が、にんっしんしてしまったのだ。 れいむの場合は野良ゆっくりだった。 しかし今回は飼い主のいる飼いゆっくり。 怒りが有頂天な飼い主が、お兄さんの家に怒鳴り込んできた。 ひたすら平謝りさせられた挙句、ごっそりと養育費まで取られたお兄さん。 ここまで来ると、さすがのお兄さんも、自分がどんなに馬鹿だったのか気がつく。 まりさを見つめるお兄さんの目は、冷たい輝きに満ちていた。 その時、まりさは言葉ではなく本能で理解する。 このままここにいたら殺される。 まりさは唯一の出口を塞がれる前に、お兄さんの家から逃げ出した。 自分に都合の悪い箇所を端折りながら、まりさはれいむに説明した。 つまりは殆ど端折られた。 れいむが知ったのは、公園に行き過ぎたせいでお兄さんに殺されそうになり、まりさが家を飛び出した事くらいだ。 「おうちに帰れば?」 「そ、そんなことしたらころされるんだぜ! まりさはまだしにたくないんだぜ!」 「じゃあ、まりさはどうしたいの?」 「れいむにたすけてほしいんだぜ~。そうだ! まりさがれいむのおうちにすんであげるんだぜ!」 どこをどうすれば、この発想に辿りつくのだろう? まりさは自分を置いて行った時の事を、まったく覚えてないのだろうか? 実際、まりさはろくに覚えていなかったが、呆れ返ったれいむには、かける言葉が見つからなかった。 「はやくれいむのおうちにあんないするんだぜ! ふたりでゆっくりするんだぜ!」 「まりさは本当に馬鹿なの?」 「そんなことないんだぜ! ゆっくりかんがえたけっかがこれなんだぜ!」 ああ、やっぱり馬鹿なんだ。 れいむはこんなのに餡子をときめかせた事のある自分が、心底嫌になってきた。 このまま、まりさを振り切って、巣に帰る事は出来るだろう。 まりさの身体はボロボロだ。とても自分に追いつけるとは思えない。 だが、しかし……自分が捨てれば、まりさは多分、いや必ず死んでしまう。 別に死んでもかまわないのだが、れいむにはそれすらも、どうでもいい事に思えた。 どうせ巣は空いているのだ。 赤ちゃん達が去ってから、巣の中はれいむ一人で住むには広すぎた。 まりさが一人増えたくらいで、どうとなるものでもない。 なら、まりさがいれば、赤ちゃん達を失った悲しみが埋まるのだろうか? そんな事、考えるまでもない。 まりさはまりさだ。最低なゲスゆっくりだ。 赤ちゃん達の欠片にも値しないだろう。 だが、それでも……れいむは、まりさを巣に連れ帰る事にした。 「わかったよ。れいむのお家で勝手に住めばいいよ」 「さすが、れいむなんだぜ! あいしてるんだぜ!」 大喜びで、れいむの周りを跳ね回るまりさ。 その姿を見て、れいむは何も感じなかった。 まりさとの生活が始まった。 まりさは当然のようにれいむが持ってきたご飯を食べると、当然のようにどこかへ遊びに行った。 まりさがどこに行くのか、れいむは全く気にならなかった。 暗くなると、まりさは巣に帰ってきた。 そしてれいむの取っておいたご飯を当然のように食べると、当然のようにすっきりを求めてきたが、それは丁重にお断りした。 まりさとすっきりすれば、また赤ちゃんが出来るだろう。 可愛い赤ちゃん。 でもそれは、今頃人間の家でゆっくりしてる、あの赤ちゃん達ではない。 れいむの思考は、ゆっくり成らざる物へと変化していた。 れいむにはゆっくり出来る物が残っていなかった。 ある日、れいむが巣に戻ってくると、そこにはまりさともう一人のゆっくりがいた。 だらしない表情をしたまりさが、そのゆっくりに擦り寄っている。 初めて見るゆっくりなのに、その名前が何故かれいむの頭に浮かんできた。 あれは、ぱちゅりーだ。 「どうしたの、まりさ? 何でぱちゅりーがいるの?」 「ぱちゅりーはいえがなくてこまってたんだぜ。だからまりさのおうちにしょうたいしたんだぜ!」 いつの間にか、この巣はまりさのお家になっていたらしい。 大方このぱちゅりーは、まりさがすっきり相手として連れ帰って来たのだろう。 毎晩お断りしてたから、まりさはすっきりしたくて堪らなかったに違いない。 れいむはそう考えたが、怒りはどこからも沸いて来なかった。 陶器人形のような表情で、目の前にいる二人を眺める。 「ところでれいむ。ごはんはまだかなんだぜ?」 「ご飯? ご飯はこれでも食べるといいよ」 れいむは頬にしまっていたご飯をペッと吐き出す。 さっき巣の前で何となく捕まえたバッタだ。 何となく捕まったばっかりに、バッタはまりさに食べられてしまう。 目の前のバッタを見て、れいむはバッタと自分のどちらがついてないのだろう? などと考えていた。 「ちょっとまつんだぜ、れいむ。これじゃはらのたしにもならないんだぜ!」 「じゃあ自分で取ってくれば?」 「まりさよりれいむのほうが、かりがうまいんだぜ! それにまりさはいっかのだいこくばしらだから、どしんとかまえておくべきなんだぜ!」 一家の大黒柱。れいむの親まりさは、まさにそう呼ぶべき存在だった。 自ら先頭に立ち家族を支え、そして真っ先に人間に捕まった。 それに比べて、この新たな自称大黒柱は、何と頼りない事だろう。 この巣の中には何も残っていない。れいむの中にも何一つ残っていない。 れいむはゆっくりと巣を後にしようと二人に背を向けた。 「やっといくきになったかなんだぜ! びょうじゃくせっていのぱちゅりーのぶんもたのむんだぜ!」 「むっきゅう、じびょうのぜんそくがつらいわ」 「何言ってるの? れいむはご飯を持って来ないよ。ゆっくり理解してね」 「れいむこそ、なにいってるんだぜ? ごはんをもってこないなら、れいむはこのいえにすむしかくがないんだぜ!」 「それでいいよ。そのお家は二人にあげるから、勝手に使ってね」 れいむは巣の外に出た。 綺麗な夕日が空を赤く染めていた。 後ろの巣穴から、まりさが自分を呼ぶ声が聞こえる。 その声が、れいむのすぐ後ろまで近づいてくる。 「れいむ! さっさと、ごはんもってくるんだぜ!」 ポスンとひどく呆気ない音がして、れいむはまりさに突き飛ばされていた。 土手は傾斜だ。れいむの丸い身体が土手を転がり落ちていく。 この先には川が流れている。 ずっと住んでいた巣の前である。 れいむは誰よりも先に、自分に迫っている危機を感じ取っていた。 足に力を入れれば、今なら方向を変える事も出来るだろう。 だが、れいむは、このままでいいと思った。 最初に家族を失った。これは人間が連れて行ったせいだ。 その次に人間に飼われていたまりさを失った。これは赤ちゃんが出来たせいだ。 赤ちゃんを失った。これは自分のせいだ。 自分が良かれと思い決断したせいだ。 だが、これだけは誇りに思っていいはずだ。 赤ちゃん達は人間とゆっくりし、立派なゆっくりに成長するだろう。 失った物は多いが、自分は未来の幸せを得る事が出来た。 赤ちゃん達、ゆっくりしてるかな? れいむの意識が水に溶けた。 ここは静かな森の中──ではなく、都心に程近いベッドタウンの一画。 川原の土手に掘られた巣の中に、あるゆっくりの家族が住んでいた。 まりさとぱちゅりー二人きり。子供はまだいないが、ぱちゅりーの頭には茎がはえていた。 きっと後数日もすれば、可愛い赤ちゃんが産まれるだろう。 だが、二人にそんな時間は残されていなかった。 「わんわんわん!」 「い、いいいぬさん、やめるんだぜ! たべるんなら、ぱちゅりーのほうをたべるんだぜぇえええ!」 「むっきゅううぅうう!! ま゛りざなに゛いっでるのおおぉおおおお!?」 土手でゆっくりを見つけた犬さんことポチはこう考えた。 後ろの奴は何だか動きがにぶそうだ。まずはこのよく動く方を何とかしよう。 ポチの中で野生が弾けた。 逃げるまりさに飛び掛り、そのまま上から地面に押さえ込む。 これで相手は簡単に逃げられない。 今度は両手の爪をしっかり食い込ませ、動く気力を削いでおく。 「やべるんだぜえぇええ!! ま゛りざはおいじぐないんだぜえぇええええ!!」 何やら叫んでいるが、ポチにはそんなこと関係ない。 帽子が取れてガラ空きになった頭頂を一齧り、二齧り。 抉られた傷痕から、真っ黒な餡子が噴出する。 「ま゛りざのあ゛だま゛があ゛あぁあああああ!!」 あまりの痛みに、まりさはポチの抱擁の中で暴れた。 こいつ動くぞ! ポチはゆっくりのポテンシャルに戦慄した。 しかし、こちらが優勢なのに変わりはない。ポチは負けじと、そのまま頭に齧り付く。 饅頭の皮だけあって、あまり噛み応えがない。じじぃのくれる犬用ガムの方がまだ気合いが入っている。 噛んでは千切り、噛んでは千切り、後頭部の餡子を剥き出しにしていく。 顔面だけ残し抉り取った所で、やっとまりさの動きが止まった。 「ゆ゛っ……ゆ゛っ……ゆ゛っ……」 「わんわんわん!」 どうやらまだ生きているらしい。驚いたポチは、念のためにもう二齧りし、まりさの息の根を完全に止めた。 次のターゲットは、白目を剥いてガクガク震えてるぱちゅりーだ。 ポチは相手がまだそこに突っ立ってた事を犬の神様に感謝した。 一気に間合いを詰め、まずは頭上をふらふら揺れている茎を噛み千切る。 「ぱぢゅり゛ぃのあがぢゃんがあぁああああ!!」 思ったとおりだ。もう一匹になかったアレは、何やら大切な物だったらしい。 これで勝つるわん! ポチは勝利を確信し、微動だにしない相手の顔面に齧り付く。 その時、ポチに電流走る。 さっきのと味が違う! うっめ! めっちゃうっめこっち! じじぃのめしよりよっぽどうめぇ! パネぇわんわんわん。 ポチはガツガツとぱちゅりーに貪り付いた。まさに犬食いである。 だが、そんなポチの幸せも、長くは続かなかった。 「ぽーち、ぽーち! まったくポチは足が速いのぉ。ワシを置いていかないでおくれ──ってナニ食っとんのじゃあああああ!!」 「きゅうぅん……」 飼い犬を放して散歩させるという暴挙をしでかしていた飼い主が、ゆっくりを貪り食うポチを発見したのだ。 ポチは頭をペシペシ叩かれて、思わず尻尾をクルっと丸める。反省の合図だ。 これを見た飼い主はポチを撫でると、ふぅと大きくため息をついた。 「久しぶり散歩コースをもどした結果がゆっくりじゃよ! ポチ帰るぞ! そんなもん食ったら腹壊すだろうに」 「わんわんわん!」 一人と一匹が土手を後にする。 後にはただ静寂とゆっくりの屍だけが残された。 おわり このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau2/pages/903.html
「突然申し訳ございません、少々お時間よろしいでしょうか?」 声がしたほうを見るとゆっくりがいた。正確に言えばゆっくりまりさと言われる種類のゆっくりだった。 「…」 飼いゆっくりの中には知能の高いものも多く、人間と同じように挨拶できるものも少なくない。 しかしこのように流暢に言葉を話すゆっくりはいなかったはずだ。 俺は他に今の言葉を発した人間がいるのではないかと思い周囲を見渡した。 「あの、すいません。私です、今喋っているのは目の前にいるゆっくりです」 またもや目の前のまりさが話す。どうやら気のせいではなかったようだ。 「少々聞いていただきたい話があるのですが」 それから数刻後、俺とまりさは俺の部屋にいる。 「こんにちは。ゆっくりしていってくださいね!」 俺の飼いれいむが俺とまりさにお茶を持ってきた。お茶といってもインスタントなのでボタンを押すだけなのだが それだけでもゆっくりにとってはかなり高い知能を有しなければできないことだ。とても利口で可愛い俺のれいむ… 落ち着いたところでまりさは話し始める。 まりさは自分のことを”セブン”と名乗った。セブンの話をまとめるとこうだ。 自分は人間の研究施設によって作られた”高い知能を持つゆっくり”であること。 自分の知能を悪用されることを恐れ研究所を脱走したとのことだった。 「現在、ゆっくりは完全に社会に浸透した存在となっています。 一般的にゆっくり達の知能は低いという認識があるため主要施設の周りをうろついても警戒されません。 人間達この認識を利用して開発されたのが私のように賢いゆっくりなのです。」 「知能が高いのはわかったけど所詮ゆっくりでしょ?盗聴くらいしか使い道ないんじゃないかなあ」 俺のつぶやきにセブンは答える。 「盗聴用ゆっくりは現在でも実用化されているみたいですね。ですが私は違います。」 まりさは帽子の中からおもむろに小型のパソコンとタッチペンを取り出した。 ペンを口に咥え器用にパソコンを操作する。 画面になにやら良くわからない文字の羅列やミサイルの設計図のようなものが現れる。 「これは研究所で開発を命じられた兵器の設計図です。まだ70%程度しか完成してませんが 完成すれば多くの人の命が奪われることになるでしょう。 このように私は人間を遥かに超えた知能を手に入れたのです!」 そう言って俺を見つめるセブン。なんだか急にセブンが俺を見下しているような気がしてきた。 俺の飼いれいむも最初はすぐ側で話を聞いていたが内容が理解できなかったらしく 俺の手によりそってすーりすーりしている。もちもちしたやわらかさが手に伝わる。やっぱりれいむは可愛いな。 「知能の高いゆっくりが増えれば世界は混沌としたものになったでしょう。 私はそれを防ぐため研究所を爆破し逃げることに成功しました。 しかし追っ手が迫っており一人では逃げ切ることができません。そこであなたに私をかくまって欲しいのです。」 「でもなんでセブンは研究所を爆破したんだ?そのまま研究所で働いていればゆっくりに都合のいい世界になったんじゃないのか?」 俺はふと思った疑問をセブンに問いかける。よほど研究所の人間にひどいことでもされたのだろうか? 「私が生まれたのは偶然…いや神の生み出した奇跡と呼ぶべきでしょうか。 神の奇跡は一度で十分。私以外に知能の高いゆっくりなど必要ないのです。」 要するに自分がだけが特別な存在でいたいがために他の可能性を潰したということなのだろう。 これなら復讐のための行動だったほうがまだましだ。 自分の力を悪用されたくないというのも建前で本当は人間の下につきたくないだけなんじゃないのか? 「それに研究所の人間は人間にしては知能が高いですからね。それにゆっくりを道具としか見ていない。 私の思い通りに動かすのは難しいと思ったのですよ。 その点あなたは人間としては平均的な能力のようだし。そのれいむとの関係から察するにゆっくりに対する感情も良いようだ。 どうでしょう、私をかくまっていただけませんか?危険もありますが相当の報酬は約束しますよ。」 やはりこいつは俺を、いや人間を自分より格下の存在と見ているようだ。さてどうしてくれようか… その時俺のれいむがまりさの前に飛び出した。 「ゆゆっ!むずかしいはなしはいいかられいむといっしょにあそぼうよ」 そんなれいむをセブンは冷ややかな目…例えるなら知能に障害のある人間を見下すような視線を送った。 「すいませんが私は大切な話をしているのです。あなたと遊んでいる暇はありません。」 「そんなこといわないでれいむとあそぼーよ。れいむおうたがうたえるんだよ。ゆーゆゆー♪」 れいむは歌を歌いだした。この気まずい雰囲気を察して和ませようとしてくれたのだろう。 れいむは歌のレッスンも受けているので天使のようにきれいな歌声を奏でる。 れいむの歌を聴いたにもかかわらず、セブンは相変わらずれいむを見下した目で見つめながら俺に言った。 「こんな歌や雑用しかできないゆっくりを飼うより私をパートナーにしてみませんか? 私の頭脳と人間の手足が合わさればこの国の経済を支配することも可能ですよ。」 俺はれいむにお茶のおかわりを頼んだ。お茶を入れに別室へ移動するれいむ。 部屋かられいむが消えたのを確認して俺はセブンの体を押さえつけ逃げられないようにする。 「決めたよセブン。どうもお前とはゆっくりできないからゆっくりしてもらうことにするよ。永遠にな。」 セブンは俺の行動と台詞から交渉が失敗したことに気づいたようだ。なんとか助かろうと俺を説得しにかかる。 「私を研究所に売り渡すつもりですか?研究所の味方についてもなんのメリットもありませんよ。 場合によっては秘密を知られたことを危惧しあなた自身の安全を消しにかかるかもしれない。」 「そういうのじゃないんだよなあ。俺はお前が気に入らない、それだけだ 死にたくないのならえらそうな御託はいいから命乞いでもしてみたらどうだ?」 俺はセブン…いやこんな奴ただのまりさでいい。まりさに最後のチャンスを与えた。 「あなたの要求を呑みましょう。ですのでこちらの安全を保障してください」 これで俺の腹は決まった。もしまりさが『ごべん゛な゛ざい゛い゛い゛い゛ま゛り゛ざがわ゛る゛がっ゛だでずう゛う゛う゛う゛う゛』 とでも言って命乞いをしたらそのまま帰してあげたかもしれない。 おれはゆっくりが好きだ。それがたとえ飼いゆっくりでなく畑を荒らすゆっくりでも。 野菜が勝手に生えてくると思う無知さも、人の言うことを簡単に信じる間抜けさも。 いや、そういう知能の低さを愛しているのかもしれない。だが目の前のこいつはどうだ。 知力だけは高いがまったく可愛げがない。 俺はまりさを電子レンジに入れるとそのままスタートボタンを押した。 レンジの中で何かを叫んでいるようだったが良く聞き取れなかった。 「ゆっっ!ごしゅじんさまおまたせ!おちゃをもってきたよ!」 お茶を入れに行っていたれいむが戻ってきた。 「あれ?まりさはどこにいったの?」 「ああ、まりさは急用ができたとかで帰ったよ」 れいむは無いはずの鼻をクンクンとさせる。 「ゆ?なんだかいいにおいがするよ。おりょうりしているの?」 「ああ今焼き饅頭を作っていたんだ。でもあまりおいしくなさそうだかられいむには別のものをあげるよ さっきスーパーでチョコレートを買ってきたんだ。一緒に食べよう。」 「ゆーっ!れいむちょこだいすき!」 チョコが嬉しいのかれいむは俺の周りをひょこひょこ飛び回る。やっぱりれいむは可愛いな。 あのまりさ、知能は高かったかもしれないがそれだけだった。 どんなに知能が高くても所詮手足の無い身のゆっくりでは生き残れない。 生き残れるのはれいむのような利口なゆっくりだろう。俺はそう思った。 ゆっくりはバカだという固定観念を覆してみたかった。でもゆっくりは所詮ゆっくりだった。 まりさは偶然の産物だし研究所ごと資料も消えたので賢いゆっくりは以後作られることは無かったそうです。 過去作 ゆっくり転生(fuku3037.txt~fuku3039.txt) ゆっくりくえすと(fuku3068.txt) ともだち(修正)(fuku3103.txt) ANCO MAX(fuku3178.txt~fuku3179.txt) このSSに感想を付ける